見出し画像

第六話 映画館の暗闇|10年越しの答え合わせ



映画館は思っていたより混んでいた。

土曜日の午後。

学生もカップルもたくさんいて、
チケット売り場には長い列ができていた。

私はその列に並びながら、
少しだけ緊張していた。


二回目。

たったそれだけなのに、
前回より緊張している気がした。


カラオケの時は、
とにかく会うことに必死だった。

でも今日は違う。

一度会ったからこそ、
もっと意識してしまう。


ナオ君は隣で、
映画のポスターを見ながら言った。

「これ結構面白そうじゃない?」

「うん」

私は返事をしながら、
実は映画よりナオ君の横顔を見ていた。

そんな自分に気付いて、
慌てて視線を逸らした。


上映時間になって、
私たちは席についた。

映画館の中は暗かった。

隣にはナオ君がいる。

それだけで落ち着かない。

映画が始まる。

でも正直、内容はあまり覚えていない。

スクリーンより、
隣の存在ばかり気になっていた。

笑うタイミングが同じだったり。

驚くシーンで、
同時に息を飲んだり。

そんな些細なことが、
なぜか嬉しかった。


上映が終わる。

明るくなった館内で、
ナオ君が笑った。

「どうだった?」

「面白かったよ」

「ほんと?」

「うん」

そう答えたけど、

本当は映画の内容は全く入って来なかった。


映画館を出ると、

外は少し夕方になっていた。

オレンジ色の光が街を染めている。

私たちは駅までゆっくり歩いた。

話は途切れなかった。

学校のこと。
友達のこと。
将来のこと。

たわいもない会話ばかりだった。

でも私は、
この時間が終わってほしくなかった。


駅が見えてくる。
別れの時間だった。

「今日はありがと」

ナオ君が言う。

「こちらこそ」

私も笑う。

少し沈黙が流れた。

何か言いたい。

でも言葉が出てこない。


結局、
私たちはいつものように手を振った。

「またね」

「うん、またね」


帰りの電車。

窓に映る自分の顔を見ながら、
私は小さくため息をついた。

たぶん。
もう気付いていた。

ナオ君が特別な存在になっていること。

メールが来ると嬉しい。

会えると嬉しい。

別れ際は少し寂しい。


それが何なのか、
もう分かっていた。

でも私は、
その気持ちを認めるのが少し怖かった。

好きになったら、
失うのも怖くなるから。

だから私は、
まだ知らないふりをしていた。


数週間後。

高校三年生の冬が近づいていた。

受験勉強はどんどん忙しくなっていく。

私たちのメールの頻度も
自然と減っていた。

そんなある日、
ナオ君からメールが届いた。

『推薦決まったよ😊』

私はすぐに

『おめでとう‼️』と返した。

そして続けて、もう一通。

『この前の映画ちょっとチョイスをミスったからさ』

『今度はこれ見に行かない?』

私は画面を見つめた。

行きたい。
すごく行きたい。


でも、
受験まで残された時間は少なかった。

私はゆっくりと返信画面を開いた。


(第7話へ続く)

「受験が終わったら」


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集