第七話 会いたい|10年越しの答え合わせ
第二章 ナオ君編
第七話 「会いたい」
また毎日のようにメールをするようになって、
しばらく経った頃だった。
学校で面白いことがあると、
「これ、リオに話したら笑うかな。」
そんなことを考えるようになっていた。
帰り道で夕焼けを見ても、
コンビニで新しいお菓子を見つけても、
ふと頭に浮かぶのはリオだった。
メールだけで十分。
そう思っていたはずなのに、
少しずつ、それだけでは足りなくなっていく。
文字じゃなくて、
声が聞きたい。
画面の向こうじゃなく、
同じ場所で笑いたい。
そんな気持ちが、
日に日に大きくなっていた。
ある日の夜。
部屋には携帯の明かりだけが浮かんでいた。
メールを書いては消す。
また書いては消す。
点滅するカーソルだけが、
「早く送れ」と急かしているようだった。
何度も迷って、
ようやく指が止まる。
『今度会わない?』
送信ボタンを押した瞬間、
心臓が一つ、大きく鳴った。
携帯を机に置く。
……でも、一分もしないうちに、
また手に取っていた。
時計の秒針だけが、
やけにゆっくり進んでいる。
何をしていても落ち着かない。
その時だった。
メールの受信音が静かな部屋に響く。
慌てて携帯を開く。
『うん😊』
その二文字を見た瞬間、
胸の奥がふっと軽くなった。
「……よし。」
誰もいない部屋で、
思わず小さくつぶやいていた。
約束の日。
少し早く学校を出た。
電車の窓に映る自分を見て、
前髪を直す。
携帯を見る。
我ながら落ち着きがない。
改札を抜け、
待ち合わせ場所へ目を向けた、
その時だった。
小柄な女の子が一人、
噴水の近くで立っていた。
人が通るたびに顔を上げて、
また時計を見る。
細く柔らかな髪が、風にやさしく揺れていた。
……リオだ。
思っていたより早く来ていたらしい。
少しだけ急ぎ足になる。
「……リオ?」
声をかけると、
驚いたように顔を上げた。
その表情がすぐにやわらぎ、
ふっと笑う。
「ナオ君?」
その笑顔を見た瞬間、
さっきまでの緊張が少しだけほどけた。

毎日メールをしていたのに、
会うのは今日が初めて。
初めてなのに、
どこか昔から知っているような、
不思議な安心感があった。
「緊張するね。」
リオが照れ笑いを浮かべる。
「俺も。」
そう返した瞬間、
二人とも同時に笑ってしまった。
その笑い声で、
ようやく緊張がほどけた。
カラオケまでの道。
信号で止まるたび、
話が途切れることはなかった。
昨日までメールでやり取りしていた続きを、
そのまま声にしているみたいだった。
部屋に入ると、
「ナオ君から歌う?」
「いや、リオが先でいいよ。」
「えー、何か恥ずかしいな。」
そんなやり取りまで、
なんだか楽しかった。
何を歌ったのかは、
正直あまり覚えていない。
でも、
歌い終わるたびに笑うリオの顔。
照れながらマイクを渡してくる姿。
上手!と褒めてくれる声。
それだけは、
今でもはっきり覚えている。

帰る頃には、空は夕焼け色に染まっていた。
駅まで歩く道が、
行きよりも少しだけ短く感じる。
「今日はありがとう。」
リオが笑う。
「こちらこそ。」
少しだけ間が空いた。
「……リオに会えてよかった。」
思っていたよりも、
自然にその言葉が口からこぼれた。
リオは少し照れたように笑って、
「私も。」
と、小さく頷いた。
その笑顔を見た瞬間、
また会いたい。
その気持ちは、
もう隠せないくらい大きくなっていた。
第八話へ続く
