第二話 揺らいだ|10年越しの答え合わせ
第二章 ナオ君編
第二話「揺らいだ」
『リオ、メールしてみたいって😊』
マユから届いたその一文を見て、思わず携帯を握り直した。
その一文を読んだだけなのに、
胸の奥がふっと軽くなる。
たった数文字で、
今日という一日が少し特別になった気がした。
少しして、リオのアドレスが送られてきた。
すぐに登録し、新規メールを開く。
……そこで指が止まった。
カーソルだけが、静かに点滅している。
最初のメールって、何を送ればいいんだろう。
「はじめまして。」
いや、短すぎる。
「こんばんは!」
それも違う。
打っては消し、打っては消す。
何度目かでようやく残ったのは、
ごく普通の文章だった。
『はじめまして。マユから聞いてると思うけど、ナオキです。よろしく😊』
送信。
送った瞬間に少しだけ後悔した。
もっと面白いことを書けばよかった?
もっと気の利いた言葉はなかったか?
そんなことを考えながら、携帯を閉じる。
……でも、数秒後にはまた開いていた。
まだ返事はない。
五分。
十分。
友達からメールが届くたび、一瞬だけ期待してしまう。
違う。
また違う。
ふと我に返る。
昨日、プリ帳で見ただけの女の子だ。
何をこんなに気にしているんだろう。
自分でも少しおかしかった。
そのとき、携帯が震えた。
画面に表示された名前を見て、思わず息を止める。
リオ。
気づけば、すぐにメールを開いていた。
『はじめまして。リオです。よろしくね😊』
たったそれだけ。
なのに、一度読んで閉じたあと、もう一度開いて読み返していた。
それから毎日、メールをした。
「今日何してた?」
そんな一言から始まる会話。
音楽の話。
学校の話。
好きな食べ物。
休みの日の過ごし方。
今となっては思い出せないことばかりだ。
それでも、あの頃はそれで十分だった。
好きな音楽が同じ。
好きなお菓子が同じ。
そんな小さな共通点を見つけるたび、
少しだけ距離が縮まった気がした。
SNSなんてまだなかった時代。
相手が今日どこで何をして、誰と笑っていたのか。
自分から聞かなければ、何も分からない。
だから俺たちは、一通ずつメールを重ねながら、
お互いの毎日を少しずつ知っていった。

何日か経つ頃には、最初のぎこちなさはもうなかった。
学校が終わると自然とメールを送り、
夜になってもやり取りは続く。
携帯が鳴るたび、
無意識に期待するようになっていた。
ある日、何かの流れでプリ帳の話になった。
『そういえば、マユから聞いたけど』
『何?』
『プリ帳見たの……?』
思わず笑ってしまう。
『見た(笑)』
すぐ返ってきた。
『えー最悪😂』
『なんで?』
『プリクラ見られるの恥ずかしい』
画面を見つめたまま少し考える。
……まあ、思ったまま言えばいいか。
『普通に可愛かったけど』
送信。
……しまった。
言い過ぎたかもしれない。
返事が来るまでの時間が、妙に長く感じた。
ようやく届いたメールには、
『実物は全然かわいくないよ😢』
リオは褒めると、決まって否定する。
たぶん照れ隠しなんだろう。
その反応が見たくて、ついからかってしまう。
『俺は可愛いと思ったよ(笑)』
照れ隠しみたいに(笑)を付けた。
それからも会話は途切れなかった。
何が書いてあったのかは覚えていない。
でも、終わらなかったことだけは覚えている。
リオとのメールは楽しかった。
名前が表示されるだけで嬉しくなって、
次は何を送ろうか考える時間さえ楽しかった。
最初から、ただの友達として見ていたわけじゃない。
プリ帳で見たときから、可愛いと思っていた。
だからメールをした。
だから返事が嬉しかった。
このまま続けば、いつか会えるかもしれない。
会って、もっと話して。
そんな未来を、どこかで当たり前のように想像していた。
――でも。
数日後。
放課後の校庭で、俺は一人の後ろ姿を見つける。
その瞬間。
終わったはずの恋が、静かに動き始めた。
第三話へ続く
リオ編も読んで、
答え合わせしませんか?
