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第一話 覚えていた|10年越しの答え合わせ

第二章 ナオ君編
第一話「覚えていた」

人を好きになるきっかけなんて、

本当に些細なものなんだと思う。

リオを初めて見たのは、直接じゃなかった。

一冊のプリ帳が始まりだった。


高校二年の終わり頃。

俺は中学の同窓会の幹事になって、

同級生何人かで打ち合わせをすることになった。

最初こそ真面目に話していたはずなのに、

久しぶりに会えばそうなる。

誰を呼ぶとか、
あいつ今何してるとか、
昔誰と誰が付き合っていたとか。

いつの間にか同窓会の話はどこかへ消えていた。


そのうち、ジュンがマユに

「誰か可愛い子紹介してよ」と言い出した。


「えー。そんな都合よくいないし」

「じゃあ写真見せて。見るだけ」


しつこく言われたマユが、

呆れながら鞄から一冊のプリ帳を取り出した。


「紹介するとは言ってないからね」

「分かってるって」

そう言いながら、
ジュンはもうページをめくっていた。


ジュンは嬉しそうにページをめくりながら、

この子は?
どんな子?
と好き勝手に聞いていた。

そのやり取りが面白くて、

俺も隣から何となく覗いていた。

別に、

ただ一緒になって見ていただけだった。


何ページかめくった時、

一人の女の子に目が止まった。

派手な感じではなく、

柔らかそうな雰囲気で、

笑った顔が可愛かった。


気づけば、俺は聞いていた。

「……この子は?」

マユがプリ帳を覗き込む。

「ああ、リオ?」

リオ。

その時、初めて名前を知った。


「同じ高校の子。今もよく遊ぶよ」

「へえ」

「ナオキ、こういう感じ好きそう」

可愛い系が好きでしょ、

と言われて、否定しようとしてやめた。

たしかに好きだった。


でもプリクラなんて実物とは違う。

目だって大きく写るし、

撮り方ひとつで雰囲気も変わる。


マユがプリ帳を閉じたあと、

俺はもう一度さっきの子を見たくなった。

「もう一回見せて」

「え?」

「さっきの子」

そう言ったあと、

自分でも少し驚いた。

さっきまで興味なんてなかったはずなのに。

もう一度見たいと思った理由は、

その時の俺にも分からなかった。


マユが笑う。

「気になってるじゃん」

「いや、そういうんじゃないけど」



横からジュンまで口を挟んだ。

「お前、俺が紹介してって言ったんだけど」

「知らねえよ」

みんなが笑った。

俺も笑った。


まだ会ったこともない。

声も知らないし、どんな性格なのかも分からない。

ただ、可愛いなと思った。

その時は、本当にそれだけだった。


たぶん人は、

あとから何度も思い出すことになる一瞬を、

その瞬間には覚えておこうともしない。

俺もそうだった。


「リオに聞いてみよっか?」

マユにそう言われ、思わず顔を上げた。

「え?」

「気になるんでしょ?」

「いや、別にそこまで」

「じゃあ聞かなくていい?」

そう言われると困る。

「……まぁ、できれば」

マユは笑いながら携帯を取り出した。

「じゃあ電話してみる」

「今?」

「今」

まさかその場でかけるとは思っていなくて、

急に落ち着かなくなった。

ジュンが面白そうに

「緊張してんじゃん」と笑う。

否定したけれど、

マユが電話をかけた途端、

なぜか俺たちは揃って黙った。


出ない。

もう一度かける。

それでも出ない。

三回目。

呼び出し音を聞きながら、さすがにしつこくないかと思った。


「あー残念!出ないわ」

マユが電話を切る。

ほっとしたような、残念なような。

自分でもよく分からなかった。


「明日、学校で聞いてみるね」

「うん」

そう答えてから、念のため付け足した。

「まあ、無理なら全然いいけど」

「はいはい」

その言い方で、たぶん何も隠せていなかった。


少しして、マユが思い出したように言った。

「そうだ。リオに送るから写真撮らせて」

たしかに俺だけが知ってるのは不公平か。

マユが携帯を構えると、

ジュンが当然のように隣へ入ってきた。

「なんでお前も入るんだよ」

「俺はさっきのミキちゃんに送っといて♪」


結局、俺とジュンは並んで写真を撮った。

「これ送るね」

「ちょっと待って、見せて」

「もう送った」

「早っ」

マジかよ。

もう少し髪くらい直せばよかった。

そう思ってから、自分で少しおかしくなった。

まだ向こうが俺とメールしてくれるかも分からないのに。


その日は、それで解散した。

翌日、学校が終わる頃に携帯が鳴った。

マユだった。

『リオ、メールしてみたいって😊』

思っていたより、嬉しかった。

俺は画面を見ながら、昨日のプリクラを思い出した。

柔らかそうな雰囲気と、笑った顔。

リオ。


昨日まで知らなかった名前を、

俺はもう覚えていた。

何度も頭の中で、その名前を繰り返していた。


この時の俺は、まだ知らない。

これから一度、自分から連絡を終わらせることを。


第二話へ続く


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