第一話 入学|新しい春
第三章 ユウ先輩編
第一話 「入学」
胸の奥が、少しだけ痛かった。
桜並木を歩くたび、
思い出してしまう人がいる。
あの恋は、もう終わったはずなのに。
それでも春は、何も知らない顔でやってくる。
もうすぐ大学生活が始まろうとしていた。

入学式より少し前。
大学が開催する一泊二日の合宿に参加することになった。
目的は、新入生同士の交流。
人見知りの私にとっては、
それだけで十分緊張するイベントだった。
大学へ着くと、同じバスに女の子が二人いた。
「私も、一緒にいいかな?」
勇気を出して声をかけると、
「もちろん!」
二人とも笑顔で迎えてくれた。
それだけで、少し肩の力が抜けた。
一人は、育ちの良さそうな雰囲気のユリ。
でも話してみると、
お互いB型だったこともあって、すぐに打ち解けた。
人にあだ名を付けるのが得意で、
笑いのツボもよく似ていた。
もう一人は、地元が偶然にも同じのナナ。
しっかり者で気配り上手。
私たち三人の中では、いつも一番頼りになる存在だった。
二人とも身長は164センチぐらいあって、スタイル抜群。
隣を歩くと、少しだけ自信がなくなることもあった。
でも、それ以上に、
こんな可愛い二人が私の友達なんだと思うと、誇らしかった。
合宿先近くの海へ着くと、潮風がふわっと頬をなでた。
青い海を見ているだけで、
「大学生になったんだ‥」
そんな気がした。
最初のレクリエーションは、
班ごとに砂の造形を作ることだった。
班は学籍番号順。
男女数人のグループに分かれ、
それぞれの班に二年生の先輩が一人つく。
ユリもナナも、同じ班だった。
柄シャツに白いジャケット。
細身の黒いパンツ。
「うわ…。」
絶対チャラい。
それが、ハヤト先輩を見た最初の印象だった。
「よーし!何作る?」
ハヤト先輩がパンッと手を叩いた。
でも、誰もアイデアが浮かばない。
みんなで顔を見合わせていると、
「よし!任せろ!」
そう言って先輩は白いジャケットを脱ぎ、
砂をかき集め、小さな山を作った。
そして、その真ん中に棒を一本。
「完成!」
「え‥?」
「どした?」
「これ何ですか?」
「え?これ、うちの作品。」
次の瞬間、みんなが吹き出した。
「先輩、それ絶対怒られますって!」
「いや、芸術って自由だから。」
真顔で言うから、
余計におかしかった。

結局そのあと、
みんなでちゃんと砂のお城を作った。
気づけば、さっきまで緊張していた空気は
どこかへ消えていた。
みんなで笑って、みんなで砂だらけになって。
大学生活って、
思っていたより楽しいのかもしれない。
そんな予感がした一日だった。
第二話へ続く
