第五話 はじめてのデート|10年越しの答え合わせ
『今度会わない?』
そのメールを見た瞬間、
私は携帯を落としそうになった。
会う。
つまり‥
二人きりで?
今まではずっとメールだった。
画面の向こうのナオ君。
毎日やり取りをしているのに、
実際に会ったことはない。
だから嬉しかった。
でも、
それ以上に緊張した。
私はその日の夜、
なかなか眠れなかった。
どんな話をしよう。
沈黙になったらどうしよう。
プリクラと違うって幻滅されたらどうしよう。
考えれば考えるほど不安になる。
次の日。
私は真っ先にマユへ報告した。
「どうしよう」
私が言うと、
マユはなぜか嬉しそうだった。
「だから大丈夫だって!」
「でも緊張する」
「ナオキだって絶対緊張してるから」
そう言われても、
やっぱり緊張するものは緊張する。
デート当日。
私は待ち合わせの三十分前には到着していた。
早すぎる。
自分でもそう思った。
でも落ち着かなかった。
待っている間、
何度も携帯を見る。
髪型を確認する。
鏡を見る。
また携帯を見る。
完全に挙動不審だった。
その時だった。
「リオ?」
声がして、顔を上げる。
そこにナオ君がいた。
私は一瞬、
何も言えなくなった。
初めて声を聞いた。
写メでイメージしてたより
背が高かった。
思っていたより爽やかだった。
そして、
思っていたより優しそうな顔をしていた。
「ごめん待った?」
「ううん」
全然待ってない。
本当は三十分前からいた。
でも恥ずかしくて言えなかった。
「じゃあ行こっか」
私たちは並んで歩き出した。

最初の行き先はカラオケだった。
ナオ君は歌が得意と言っていたから、
少し楽しみにしていた。
でも実際は、
歌声をあまり覚えていない。
緊張しすぎていたから。
ナオ君が何を歌ったか。
どんな順番だったか。
今となっては曖昧だ。
覚えているのは、
楽しかったことだけ。
そして、
二人きりなのに不思議と居心地がよかったこと。
メールの延長みたいだった。
無理に盛り上げなくても、
自然に会話が続く。
沈黙が怖くなかった。
それが嬉しかった。
帰り際。
ナオ君が少し照れながら言った。
「今日ありがとう」
「うん」
「楽しかった」
「私も」
するとナオ君が笑った。
「リオに会えてよかった」
その一言が、
思った以上に嬉しかった。
帰宅して制服を脱いだあとも、
私は何度もその言葉を思い出していた。
リオに会えてよかった。
たったそれだけなのに。
何度も…
何度も。
今振り返ると、
その日ナオ君と歩いた道なんてほとんど覚えていない。
だけど、不思議なことに。
駅前の大きな交差点を二人で渡った瞬間だけは、
今でも鮮明に思い出せる。
どうしてあの景色だけ覚えているんだろう。
当時の私は、そんなこと考えもしなかった。
その日の夜、
ナオ君からメールが届いた。
『今日はありがとう😊』
私はすぐに返信した。
『私も楽しかった』
送信したあと、
ベッドの上で小さく笑った。
たぶん。
この頃にはもう、
好きだったんだと思う。
でもまだ、
その気持ちを認めるのが少し怖かった。
恋だと言ってしまったら、
失うのが怖くなるから。
それからしばらくして、
ナオ君がまた言った。
『今度映画行かない?』
私は画面を見ながら、
思わず笑顔になった。
次がある。
それが何より嬉しかった。
【第六話へ続く】
「映画館の暗闇」
