Photo by
akiran180
【毎週ショートショートnote】インフル念写|エッセイ
病室の白い天井って、どうしてあんなに“無音の音”がするんだろう。
私が寝返りを打つたび、消毒液の匂いが、遠い昔の冬を連れてくる。
インフルエンザの熱でぼんやりしていたせいか、
あの夜は、心の中のイメージが全部スクリーンに映し出されるみたいに鮮明だった。
まるで——念写。
閉じた瞼の裏に、突然 “銃声” が走った。
パン、と鋭い音。
でも、恐怖じゃなかった。
冷たい空気を割る、リアルな現実の音というより、楽譜の一部みたいだった。
私の心のどこかには、いつも「余韻」がある。
弾かれていない鍵盤の上を、誰かの指がふわりと通ったような感覚。
あの日の銃声も、楽器の一音のように、私の中で波紋をつくった。
——生きているって、こんなふうに突然、
世界に音が差し込んでくることなのかもしれない。
薄暗い病室で、点滴の滴るリズムが、ゆっくりと楽譜になっていった。
私の呼吸と、心臓の鼓動と、遠くのナースステーションの足音が重なって、
奇妙に整ったワルツのように聞こえた。
「生きる音」って、いつもこんなふうに散らばってるんだなって思った。
熱が上がるたびに、
私の中の景色が、真冬の窓に貼りつく霜みたいにゆっくり形を変えていく。
念写みたいに浮かんでは消える断片。
銃声の音、病室の白、点滴の滴り、楽譜の空白。
その全部が、
「まだ大丈夫だよ」って私に言ってる気がした。
熱が下がったあとも、あの夜の音たちは、
胸の奥にゆっくり沈んで残っている。
忘れたくない静かな記憶として。
了

*下記企画に参加させて頂きました*
☆次の作品はこちらです↓↓↓
前回の作品はこちらです↓↓↓
最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず
いいなと思ったら応援しよう!
読んで下さりありがとうございます!励みになります!