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kosuketsubota
【毎週ショートショートnote】文学茶釜|ショートショート
むかし、祖母の茶釜には「文学茶釜」というあだ名がついていた。
理由は単純で、お茶を淹れるたびに、
まるで登場人物たちが湯気の向こうでざわざわ会議を始めるみたいに、
香りが濃かったからだ。
祖母いわく、
「いいお茶はアイキャッチが必要なんだよ」
と言って、湯呑みにちょっとだけ明るい色の皿を添えていた。
“アイキャッチ”という言葉を、
この人は広告で覚えたのか、ドラマで覚えたのかは知らない。
ただ、ほっこりした湯気の世界に、
突然カタカナ語が混ざる不思議さが、
子どもの俺にはツボだった。
ある日、そんな祖母が急に——
「外国のお菓子を取り寄せたよ」
と嬉しそうに包みを開けた。
出てきたのは、黒くて小さな“サルミアッキ”。
北欧の悪魔の飴。
祖母は「体に良さそうじゃない?」なんて言いながら
無邪気に口に入れた。
三秒後、茶釜の前で固まった。
五秒後、ゆっくりと俺を見た。
十秒後、「……これは拷問だねぇ」と笑った。
祖母のそんな表情を見るのは初めてで、
俺は腹を抱えて笑ったけど、
台所はしばらく“薬草ダンジョン”の匂いがした。
そのあと祖母が口直しに出してくれたのが、
自家製の栗きんとんだった。
ほくほくで、甘くて、
あの世とこの世の境目ぐらい優しい味。
サルミアッキの破壊力で麻痺していた感覚が
ゆっくりと帰ってくるあの感じ。
そのとき気づいた。
結局、苦いものやクセのあるものも、
最後は誰かの“やさしい一皿”が救ってくれるんだよな、って。
そして今でも、
湯気が立つカップを手に持つと、
祖母の文学茶釜を思い出す。
たぶん俺はあの頃から、
「言葉」と「味」のあいだにある
小さな物語が大好きだったんだと思う。
了

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