【毎週ショートショートnote】合戦バー|ショートショート
その店は、路地裏のさらに裏、地図にも載っていないくせに、人が吸い寄せられるように集める“不思議なバー”だった。看板には筆文字で「合戦バー」。戦好きのオタクがつけたような名前だが、扉の奥の雰囲気は妙に落ち着いていた。
カウンターに座ると、店主が低い声で言った。
「今日はどの陣営につきます?」
どうやらここでは、客同士がテーマに沿った“合戦”をするらしい。
でも武器なんて持ち込めないから安心してると、店主が胸元から小さな銀色のものを取り出した。
――デリンジャー。
ただし銃口からは、光しか出ないらしい。
ルールは簡単。
“忘れたいもの”に向けてこの光を放つと、その記憶が冥王星くらい遠くへ飛んでいく。
完全には消えないが、届かない距離まで後退する。
私はデリンジャーを握った。予想より軽い。
今日の対戦相手は、静かに笑うスーツの男。
店主が合図すると、男は真っ先に光を撃った。
「上司の理不尽!」
光が私の肩をかすめ、壁にぶつかってはじけ飛ぶ。
なんだこれ、と笑いそうになる。
でも、私も撃つ番がきた。
「自分を責めすぎる癖!」
光はまっすぐ男の胸元に跳ね、冥王星の空へ飛んでいった。
撃つたびに、胸の奥が少しだけ軽くなる。
戦なのに、どこか救われていく。
不思議だ。
このバーが人を集める理由が、分かってきた気がする。
数発撃ち合ったあと、店主が静かに鐘を鳴らした。
「本日の合戦、引き分けです」
引き分け。
でも、私は勝った気がしていた。
だって、さっきまで胸のど真ん中を占領していた重たい気持ちが、
今は冥王星の向こう側で、ちっちゃく丸まって眠っているみたいだから。
了

*下記企画に参加させて頂きました*
☆次の作品はこちらです↓↓↓
前回の作品はこちらです↓↓↓
最後までお読みくださり、ありがとうございます😊すず
いいなと思ったら応援しよう!
読んで下さりありがとうございます!励みになります!