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pinkcat009
【せりふ三題噺】どこにやったの?|キツネ.煮付け.歴史|ショートショート
タイトル: 歴史を食べるキツネ
「どこにやったの?」
古びた神社に響いた声に、私は思わず足を止めた。
声の主は、金色の尾を九本持つキツネだった。
境内には、大きな鍋がぐつぐつと音を立てている。
中をのぞくと、魚の煮付けが甘辛い香りを漂わせていた。
「歴史が一ページ足りないんだ。」
キツネは困った顔で耳を伏せる。
歴史が、一ページ?
首をかしげる私に、キツネは鍋を指差した。
「この世界の歴史は、本になってるわけじゃない。毎晩、煮付けにして味を染み込ませるんだ。」
意味が分からない。
けれど鍋の中を見ると、魚の身には文字が浮かび上がっていた。
『春』『戦』『約束』『再会』
どれも誰かの記憶の欠片らしい。
「歴史は、味が染みるほど忘れられなくなる。」
キツネは得意げに笑った。
その時、一枚の紙が風に乗って私の足元へ落ちてきた。
拾い上げると、そこにはまだ何も書かれていない。
「それだ!」
キツネは目を丸くした。
「最後のページだ! それがないと、明日の歴史が書けない!」
私は紙を差し出す。
キツネはそれを鍋にそっと浮かべた。
すると煮汁が静かに染み込み、真っ白だった紙には文字が浮かび始める。
『今日、見知らぬ誰かが親切を届けた。』
キツネは満足そうに鍋の蓋を閉じた。
「歴史は王様や英雄だけが作るものじゃない。」
「誰かが差し出した、その小さな優しさも、ちゃんと煮込まれて残るんだ。」
そう言って笑うと、九本の尾は夕焼け色の光になって空へ溶けていった。
翌朝、神社はどこにもなかった。
でも、不思議と甘辛い煮付けの香りだけは、いつまでも私の記憶に残っていた。
了

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