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【毎週ショートショートnote】浮気清浄機|ショートショート


タイトル:浮気清浄機のある喫茶店

路地の奥に、その店はある。

看板には小さく、
「ジャズ喫茶」とだけ書かれている。

扉を開けると、
低くやわらかな音が流れていた。

チャンステーマのように、
どこか高揚するリズムなのに、
店内は静かだ。

カウンターの奥に、
見慣れない機械が置かれている。

丸いガラスの中で、
淡い光が揺れていた。

「それ、気になる?」

マスターが、ゆっくり言う。

「……はい」

浮気清浄機だよ」

意味が分からず、言葉を失う。

「ここに来る人はね」

コーヒーを淹れながら、続ける。

「誰かを好きでいながら、
 少しだけ心が揺れた人たちなんだ」

ルーズリーフが差し出される。

「書いてみな」

そこには、まだ何も書かれていない。

正直な気持ち。

言葉にしたくなかったもの。

ペンを持つ手が、少しだけ止まる。

それでも、書く。

書き終えると、
マスターがそれを受け取って、機械に入れる。

光が、わずかに強くなる。

ジャズの音が、少しだけ深くなる。

「これで、どうなるんですか」

聞くと、マスターは笑った。

「消えるわけじゃないよ」

静かな声。

「ただ、“混ざらなくなる”だけだ」

心の中で、絡まっていたものが、
少しだけほどける。

好きな気持ちと、
揺れた気持ち。

どちらも消さずに、
ちゃんと分けて持てるようになる。

店を出ると、
夜の空気がやわらかい。

完全にきれいになったわけじゃない。

でも、前より少しだけ、
自分の気持ちを見失わずにいられそうだった。

チャンステーマの余韻が、
まだ胸の奥で鳴っている。

やり直すための音みたいに。



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