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【毎週ショートショートnote】未練配達員|ショートショート


タイトル:未練配達員と鍵のお嬢様

月の出る夜だけ働く配達員がいる。

名前はない。

人々は彼を、未練配達員と呼んでいた。

届けるのは手紙でも荷物でもない。

渡しそびれた言葉。

言えなかった謝罪。

伝わらなかった想い。

そういう“未練”を運ぶ仕事だ。

ある夜。

配達員のもとへ奇妙な依頼が届く。

届け先は、霧の古城。

依頼主は、お嬢様。

封筒の中には銀色の鍵が一つ入っていた。

配達員は首をかしげる。

未練ではなく、鍵。

だが依頼書にはこう書かれていた。

――私の未練は、この鍵の向こうにあります。

古城へ向かう。

門をくぐる。

庭には誰もいない。

噴水だけが月明かりを映していた。

やがて、お嬢様が現れる。

黒いドレス。

気品のある立ち姿。

けれど目だけは少し寂しそうだった。

「ありがとうございます」

配達員は鍵を差し出す。

お嬢様は受け取らない。

「開けてください」

案内された先には、小さな扉があった。

鍵穴に鍵を差し込む。

かちり。

扉が開く。

中には古い木箱が一つ。

箱の中には、一丁の古びた拳銃が入っていた。

配達員は眉をひそめる。

「銃刀法違反になりそうですね」

お嬢様は思わず吹き出した。

何十年ぶりかに笑ったような顔だった。

「その冗談、祖父も言っていました」

拳銃は撃つためのものではなかった。

祖父の形見だった。

大切な人を守れなかった後悔と共に封印されたもの。

お嬢様は長い間、それを開けられなかった。

怖かったから。

未練と向き合うのが。

しばらく沈黙が続く。

月が窓を照らす。

やがて彼女は箱を閉じた。

「思ったより、重くなかったです」

配達員はうなずく。

未練というものは不思議だ。

抱えている間は重い。

でも開いてみると、案外ただの思い出だったりする。

帰り際。

お嬢様は初めて微笑んだ。

「これで返却できます」

配達員は帽子を上げる。

「それは良かった」

そしてまた夜の街へ消えていく。

月明かりの下。

今日もどこかで誰かが、
鍵のかかった心を開こうとしている。


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