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【シロクマ文芸部】十二月|エッセイ


十二月になると、世界の音が少し変わる。
 空気は澄んでいるのに、どこか深く、胸の奥をくすぐる低音が響いている気がする。
 まるで遠くから、誰かがギャラルホルンを吹いているみたいに。

 私の誕生月は、この冷たい季節の真ん中にある。
 白い息の向こうで街がきらめくたびに、
 「ああ、また一年が始まるんだ」と静かに実感する。
 まるで、十二月の灯りが私の背中を押してくれるようだ。

 小さい頃、誕生日の数日前から落ち着かなかった。
 ケーキの箱を揺らさないように大事に持ち帰ったり、
 ろうそくを何本立てるのが正解なのか本気で悩んだり。
 その全部が、冬の匂いといっしょに思い出の奥に積もっている。

 クリスマスが近づくと、街はいつもより少し優しく見える。
 誰もが急いでいるのに、どこか浮かれている。
 忙しいのに、嬉しそう。
 そんな人たちの気配に包まれながら歩いていると、
 私の中でまた、あの低い音が鳴り始める。

 ――「もうすぐだよ」って。

 ギャラルホルンは、北欧の神話では“世界の転機”を告げる角笛だという。
 私にとって十二月は、まさにその“転機”だ。
 一年の終わりを告げ、新しい時間を呼び込む。
 誕生日とクリスマスが並ぶせいか、
 私は昔から十二月だけは、特別に呼吸がしやすい。

 大人になって、誕生日の扱いは少し照れくさくなった。
 でも、十二月の灯りが灯り始めると、
 どうしてか昔の自分がそっと手をつないでくれる。

 「今年も、生きてこれたね」
 その声を聞くと、私の中のギャラルホルンが深く響く。

 世界を終わらせる合図ではなく、
 世界を“続けていい”と言ってくれる合図として。

 十二月が来るたびに、私はまた少し前へ進む。
 雪の降る音に耳を澄ませながら、
 静かに、でも確かに、明日へ踏み出していく。


ギャラルホルンはラグナロクの到来を告げる笛


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