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【3つのお題に空想のひらめきを第54回】紫陽花駅の終電.透明な長靴.雨宿り喫茶店しずく|ショートショート


タイトル:遥か彼方へ行く終電

梅雨の終わりが近い夜だった。

少女は一人、

紫陽花駅のホームに立っていた。

駅名の通り、ホームの両側には紫陽花が咲いている。

青。

紫。

桃色。

雨に濡れるたび色を変える花々だった。

けれど不思議なことに、

この駅は地図のどこにも載っていない。

紫陽花駅の終電が来る時だけ現れる駅だからだ。

少女の足元には透明な長靴

雨粒が当たるたび、

小さな星の光が靴の中を泳いだ。

ホームには他に誰もいない。

列車も来ない。

それでも少女は待っていた。

大切な約束があったから。

すると改札の横に小さな灯りが見えた。

雨宿り喫茶店しずく

雨の日だけ開く喫茶店だった。

店主は白髪の老婦人。

メニューは一つしかない。

「思い出の紅茶」

少女が注文すると、

湯気の向こうに懐かしい景色が浮かんだ。

幼い日の笑顔。

雨上がりの空。

もう会えない人の後ろ姿。

少女は静かに紅茶を飲む。

すると老婦人が微笑んだ。

「終電はもうすぐですよ」

その言葉と同時に、

遠くから列車の音が聞こえた。

ガタン。

ゴトン。

ホームへ滑り込んできた列車は紫陽花色だった。

行き先表示にはこう書かれている。

『遥か彼方』

少女は息を呑む。

「そこはどこですか?」

老婦人は優しく答えた。

「会いたい気持ちが辿り着く場所ですよ」

ドアが開く。

雨の匂いが流れ込む。

少女は透明な長靴を見つめた。

中では星が揺れている。

そして一歩を踏み出した。

列車に乗り込む。

扉が閉まる。

ゆっくりと動き出す。

窓の外では紫陽花が手を振っていた。

その夜、

列車がどこへ向かったのかを知る人はいない。

ただ雨上がりの朝、

ホームに一枚の切符だけが残っていた。

そこには小さく書かれていたという。

『また会える日まで』


おしまい


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