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【風まかせ文芸部】抜道|エッセイ



いつもの帰り道を、ほんの気まぐれで外れた。まっすぐ帰ればいいのに、胸の奥がざわついて、「今日はこっち」と私の足を引っぱった。

 抜道は、夕焼けがよく似合う。オレンジとも赤ともつかない光が、アスファルトを薄く照らして、少しだけ世界をやさしくしてくれる。そんな景色に寄りかかりながら歩くと、どうしてだろう。忘れたはずの後悔が、靴紐につまずいたみたいに急に思い出される。

 あのとき、私が言えなかったひと言。
 あのとき、私が選ばなかったほうの道。
 ほんの少し勇気があれば、未来は変わっていたのかな……なんて、夕焼けに染まった空に問いかける。

 そんなとき、ふっと香水の匂いがした。私のじゃない。
 すれ違った誰かの残り香が、記憶の引き出しを勝手に開ける。ああ、そういえばあの人もこういう甘い匂いをまとっていたな、と。懐かしさと痛さが混じった息が、白くのぼって消えた。

 でもね、抜道を歩くときの私は、ほんの少しだけ強い。
 後悔を抱えたままでも前に進んでいる今の足取りを、ちゃんと感じられるからだ。

 夕焼けは、やがて夜になる。
 香水の匂いも、街の空気に溶けていく。
 後悔だけは、まだ胸にある。

 それでも、今日の私はやっぱり抜道を選んでよかった。
 まっすぐじゃなくても、遠回りでも、こうして歩いている自分がちょっとだけ好きになれたから。
   

香りで記憶がよみがえる


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