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qbannin
【3つのお題に空想のひらめきを第28回】記憶の森の中で.はじまりだけを開ける鍵.眠りを忘れた湖|ショートショート
タイトル:はじまりの鍵は終わりを開かない
記憶の森の奥で、少女は立ち止まった。
木々は名前を持たず、触れれば誰かの思い出が指先ににじむ。
嬉しかった日も、選ばなかった道も、ぜんぶ混ざっていた。
胸元で小さく鳴ったのは、
はじまりだけを開ける鍵。
終わりには使えない。後悔にも、やり直しにも合わない鍵。
森を抜けると、月の光を飲み込んだ
眠りを忘れた湖があった。
水面は鏡のようで、少女の顔ではなく
「もしも別の人生を選んでいた自分」を映していた。
そのとき、背後から低い声がする。
それは悪魔の囁き。
「楽な方へ行け。
痛みのない記憶だけを選べ」
湖に一歩踏み出せば、
重い感情も、失敗も、ぜんぶ消える。
それは甘く、優しい誘いだった。
けれど少女は鍵を握り直した。
震えながらも、湖には入らなかった。
その瞬間、世界がゆっくり回転する。
それがリングワンデルング――
喪失を抱えたまま、大人になる変化。
湖は眠り、
森はざわめきを止め、
悪魔の声は遠くに薄れた。
少女は何も手に入れなかった。
けれど、何も失わなかった。
それが、本当のはじまりだった。
おしまい

吹雪.濃霧.暗夜などのため,方向感覚を失い,無意識のうちに同心円を描くように
同一地点をさまよい歩くこと。
*下記企画に参加させて頂きました*
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