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【3つのお題に空想のひらめきを第46回】願いを食べる竜の森.音のない世界の歌姫.夢を閉じ込めたガラス瓶|ショートショート


タイトル:恋を持たない歌のゆくえ

森の奥には、願いを食べる竜が棲んでいる。

人々はときどき、
叶わなかった願いを瓶に詰めて、そこへ持っていく。

夢を閉じ込めたガラス瓶。

竜はそれを、静かに飲み込む。
甘いのか、苦いのかは分からない。

ただ、願いは消えて、
持ち主の心だけが少し軽くなる。

森の入口に、ひとりの歌姫がいた。

音のない世界で生まれた彼女は、
誰にも聞こえない歌をうたう。

それでも彼女は、歌うことをやめなかった。

声は届かないのに、
歌うことだけが、自分を確かにしてくれるから。

ある日、彼女は瓶をひとつ持って森へ入った。

中にあるのは、
願いになりきれなかった何か。

恋という形にすらならなかった感情。

彼女は、誰かを特別に好きになることがなかった。

アロマンティック、という言葉が、
あとから与えられた。

でもその前から、
彼女はただ、自分のままでいた。

「これも、食べてくれる?」

竜に問いかける。

竜はしばらくその瓶を見つめて、
ゆっくりと首を振った。

――これは、願いではない

頭の中に、低い声が響く。

――消すものではなく、持つものだ

瓶が、かすかに光る。

彼女はそれを抱きしめた。

音のない歌が、
その瞬間、少しだけ形を持つ。

誰にも聞こえないはずの旋律が、
森の奥に静かに広がる。

竜は目を閉じる。

食べることはできない。
でも、その歌は確かにここにある。

願いにならなかったものも、
夢に閉じ込められなかったものも、
消える必要はない。

歌姫は森を出る。

瓶はそのまま、手の中にある。

それでいいと、思えた。

音はなくても、
歌は、ちゃんとそこにあるのだから。


おしまい


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