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oyobare33
【シロクマ文芸部】鍋の具は|エッセイ
鍋の季節になると、胸のどこかがざわつく。
あの頃、家の台所には、いつも大きなボウルいっぱいの牡蠣があった。
母が誰かからもらってきては、まるで儀式みたいに水を替え、塩で揉み、
白い身がふくらんでいくのを眺めていた。
私はといえば、
「また牡蠣なの……?」
なんて文句を言いながら、結局は湯気の向こうで笑っていた。
生牡蠣。カキフライ。牡蠣鍋。
そして最後に残る雑炊。
飽きるほどのローテーションだったのに、
今になるとあの匂いが恋しくてたまらない。
ふいに思い出す。
母の横顔。台所の蛍光灯の光。
湯気越しに見えた、あたたかい世界の断片。
一人で暮らす今、鍋の具を何にするか悩むたびに、
あの頃の私がひょっこり顔を出す。
「また牡蠣かよ」って文句を言いながら――
本当は、あの匂いに守られてたんだって、やっと気づいた。
だから今日もたぶん、
鍋の具は、やっぱり牡蠣にする。
了

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