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[Crimson and]ゾンビですが何か?[Clover] その24

前回のあらすじ
(マスターフジムラのもとで精神鍛錬に励むルイ)

I wanna do everything
What a beautiful feeling
Crimson and clover
over and over

セクター7の全扉アンロックを知らせる警報を受けて、セグウェイで廊下を進む藤村の表情は珍しく不機嫌だった。

「チヒロ!」天井のスピーカーに呼びかける。
「はい、悠介様♡」チヒロが普段より3段階程テンションの高い、アニメ声で応える。
「なぜセクター7のゾンビを全開放した?侵入者をゾンビ化するだけなら、10体もいれば十分だろ?」
「念には念を入れたまででございます♡」
"萌え"の感情を与えたのが失敗だった。
萌えは憧れを産み、憧れが嫉妬を芽生えさせた。
チヒロは俺がルイと話していると、嫉妬で照明をちらつかせたり、ラップ音を出したり、ポルターガイストのような微妙な嫌がらせをするようになった。
ルイがトイレに行くと、ツインピークスのテーマとかXファイルの曲とかナインインチネイルズを流して、怖がらせるようになった。
ルイと将棋を指していると、ルイの時だけ勝手に残り時間を設定して「10秒、5秒、3秒2秒1秒」と、早口で読み上げて焦らせるようになった。
ルイがこっそりノートに書いた人生初の異世界ファンタジー小説の水着回を、公園エリアの屋外ステージで爆音で朗読するようになった。
可哀想に。中学生の男子には耐えられない屈辱だろう。

今日は"変身日"だ。
ゾンビ相手でも数体なら、まず喰われる事はない。
だが100体ともなれば、いくらルイでも、ひとたまりもない。
ルイ...…。

「チヒロ、今度勝手なマネをしたら、お前を東K2区画の肛門科の...…」
おええええええええええええええ
東K2区画にあった、無免許の獣医が開いていた肛門科の待合室トイレの惨状を思い出して、思わず嘔吐する。

藤村は1週間前、感染拡大状況の調査に出掛けた際に腹痛に見舞われ、トイレを借りようと東K2区画に立ち寄った。
あすこは...…本当の地獄だ。
「チヒロ、言い過ぎた。掃除しといてくれ」
廊下の壁の一部が開き、掃除ロボが出てきた。
セグウェイが吐瀉物まみれになった。歩くか。

チヒロにはこの北天ヴィレッジに立ち入る者は、漏れなくゾンビにするように言ってある。
植物園にもアートスペースにも、手練れのゾンビを配置してあった。
セクター7まで入ってくるとは。北天関係者か、もしくは政府機関の生き残りだろうか?だとしたら.…狙いはルイか。
チヒロ「入り口で使われたIDは オオクラシンヤ。社員レベル1の雑魚です」
オオクラシンヤ..…聞いた事ないな。

あの居酒屋での夜。
藤村は、いくら酒を飲んでも見た目は変わらなかったが、実はハイパー酔っていた為、橘に紹介された慎也の事も、何を話したかもすっかり忘れていた。

藤村は急ぎ足でエレベーターに乗り込む。
ルイ..…。

「これは..…」
エレベーターでセクター13からセクター7まで昇って来た藤村が見たのは、まさに異様な光景だった。
各ポッドのドアが開け放たれ、そこから飛び出した80体余のゾンビが、口を大きく開け、ヨダレを滴らせながら頭を垂れて、廊下で停止していた。
藤村はその光景に、しばし心を奪われた。
正に、Drop Dead Gorgeous.
沈黙したゾンビの群れを"美しい"と思ったのだ。
真のコクーンゾンビの群れを、俺もこの目で見たかったがな….。
「チヒロ、ここの大気に異常は?」
「ありません♡」
対ゾンビ用の神経系のガスではない。尤も、代謝の低いゾンビをこの数フリーズさせるガスなら、俺は即死だろう。

藤村は固まったゾンビを避けながら廊下を早歩きで進む。
ルイの部屋のドアも開かれていて、廊下に光がもれていた。
この辺のゾンビは、小型爆弾でも使ったように、全て頭部が吹き飛ばされている。
血のと腐肉の
「ルイ!無事か!」
ぐああああああああああああ
ルイの咆哮が聞こえる。
「ルイ!よかった!頭まだ付いてるよ!吹き飛んで無い!」
少女の声。
部屋には、頭部の無いゾンビ7体に囲まれて、血溜まりの中にヘタリこむ少女。その後ろに「変身」中のルイ。藤村は安堵の表情を浮かべる。問題無さそうだ。やはり対ゾンビ兵器はルイには効かない。
そしてドアのすぐ側で藤村の腰の高さで、ゾンビが一匹、プラトーンのエリアス軍曹のように立て膝で死んでいた。この部屋で頭が付いてるゾンビはこいつだけだ。
藤村はこのゾンビを知っていた。
こいつは…確か.…。
橘の病室から出てくる所を、何回か見かけた事がある。
ゾンビのそばにはジュラルミンケースからこぼれたTENGAが、小さな煙をあげていた。
だが藤村の目は誤魔化せない。
これは...…神経接合装置か…。

「あんた、フジムラでしょ!」
声のした方を見ると、少女が血溜まりの中から 怒りの形相でこちらに銃を向けていた。
ボオオオオオオオオオオオオ
少女の背後のルイが威嚇するような唸り声を上げる。
「アンタが弟をこんな姿に!みんなも!シンヤも!」
「弟.…」
報告書に書いてあった。ルイの姉か。
「..…そうだ。俺は藤村悠介。Zβ-23ウイルス…つまりゾンビウイルスを作って、蒔いた張本人だ」
「殺す!」カナが引き金に指をかける。
計画完成まであとひと押しだが、ここまでか。
藤村は特に狼狽えることもなく、銃先を平坦な目で見ていた。
この少女には、いや人類には俺を殺す権利がある。それだけの事を俺はやった。
ただ、もう少しだけ、俺に時間を。橘を。

(..…硬い棒で、ボッコボコに…)
ヴァアアアアアアアアアアアアアア
獣人ゾンビがベッドフレームに頭突きをかます。
ベッドフレームがコンクリートの床に完全にめり込んだ。
《…..その人を撃たないで..…お姉ちゃん…》
「ルイ!?」カナが振り向く。
異形の貌のルイが、低い獣の声と元の少年の声で同時にカナに語りかけた。
《その人は.…藤村先生は僕を助けてくれた。撃たないで》
「ルイ.…あんたしゃべってる.…」カナの瞳から再び涙がこぼれる。
《ぼくは、平気だから。ぼくは自分の意思で、この部屋に閉じ込めてもらったんだ》
「.…どうして…」
「..ルイなら大丈夫だ。誰も近付かなければ明後日の朝には、元の姿に戻る。それより、止まっているゾンビ達がそろそろ動き出すんじゃないか?」藤村が、廊下で痙攣を始めたゾンビの群れを横目で見ながら言った。
カナが唇を噛む。確かに、このままここで睨み合っていたら全滅する。
「嘘だったら殺す。嘘じゃなくても、最後には殺す」カナは銃を下げた
「行こう。エレベーターはあっちだ」
「待って。シンヤも連れて行く!」
そうだ、思い出した。大倉慎也。こいつが神経接合装置でゾンビを停めた?107体も?
「なあ、こいつは今ゾンビになったのか?」
「違う。シンヤは前からゾンビ。自我のあるゾンビ」
..…橘の病室で、こいつは…。
「わかった。連れて行く」藤村は跪いて死んでいる慎也の腕を自分の首にまわし、おんぶした。
「ルイ!すぐまた来るから!」
カナは床に転がってる慎也のメガネを拾う。ついでに10Gaも。
慎也を背負って藤村が部屋を出る。カナもその後に続く。
「チヒロ、ルイの部屋をロックしろ。ゾンビを入れるな」
「了解しました。悠介様♡」親しみのあるアニメ声でチヒロが答える。
廊下のゾンビの大群が動き始める。
「急げ!エレベーターはこっちだ!」
数匹のゾンビが早くも人間を感知し、こちらへ走って来た。ゾンビの腐った手が、カナの背中に触れる瞬間、エレベーターのドアが、ゾンビの指を切断して閉じた。
危なかった。
エレベーターが動き出す。
切断されたゾンビの指は、シャクトリムシのようにエレベーターの床を動き、やがて止まった。
「チヒロ、ルイが通りやすいように廊下のゾンビを部屋に戻したい。《エサ》で、大部屋に誘導して、ロックしてくれ」
「承知しました、悠介様♡ エサはどれになさいますか?」エレベーターの天井スピーカーからチヒロが答える。
「ストックは何があったっけ?」
「連続少女強姦殺人男と回転寿司のお茶用グラスフィラー直飲みアチチ女が居ます♡」
「両方で」
どちらも藤村には同じくらい不快だった。
藤村の端正な横顔を睨みながら、カナは直感ですぐに理解した。この男は変人だ。

第25話
https://note.com/ripe_slug9732/n/n5099648438be

第23話
https://note.com/ripe_slug9732/n/n242b8f96fa12

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