必殺!!支援員~壊れた歯車たちへの鎮魂歌(レクイエム)』~ ♯2就労移行支援所「輝き組」
キンコーン。
お昼のチャイムが鳴る。
別室での訓練を終えた利用者たちが、学習室から待機室へとぞろぞろと戻って行った。
その後ろから、熊のような大柄の男がのっそりとついてくる。黒柳のいるスタッフルームへと入ってきた。
「今日の昼メシはなにかなー。おっ、肉」
ドカッと黒柳の隣の席に座り、彼の巨躯には小さな椅子が悲鳴をあげる。仕出しのお弁当の蓋を開けてニッコリと微笑む。
「剛田さん、よかったですねー」
黒柳が穏やかに笑いかける。
黒柳の向かいの席に、縁なし眼鏡をかけた爽やかな青年がスッと座った。
「剛田さん、よかったらぼくダイエット中なので、ライス食べます?」
青年は、小さい方の仕出し容器に入ったライスを差し出す。
「おっ、悪いねー。新田さん」
剛田は浅黒い顔に皺を寄せて真っ白な歯を見せ、ライスの容器を受け取った。
新田と呼ばれた青年の隣に、新田より少し年上のポニーテールにした若い女が、ハンカチで手を拭きながら呆れ顔で静かに腰を下ろす。すかさず新田を茶化す。
「どこをダイエットするのよ」
「一ノ瀬さん。ぼく脱いだらすごいんです」
真顔で答える。
「セクハラです」
一ノ瀬は呆れたように冷たく切り捨てた。
黒柳はニコニコしながら、そんなスタッフたちのやり取りを見守っている。
「ちょっと、黒柳さん。注意しなさいよ」
黒柳達がいる事務室の入り口に、青いスーツを着た女が立っていた。切れ長の目に、少し脱色したセミロングの髪。いかにも仕事ができそうな、成熟した大人の女だ。
「それと。ビルの入り口のとこ散らかってたわよ」
ポンと一ノ瀬に空き缶を手渡す。
さっき手を洗ってきた一ノ瀬は無言で空き缶を見つめた。
「鈴木さん…今日の掃除のおじさん夕方からみたいで。」
黒柳は困り顔ではにかんだ。
「無口なおじさんか。あの人に頼ってばかりで、たまには自分たちで掃除したらどうなの?」
「あの人、口聞けないんだよ。ビルのオーナーの知り合いみたいで。こだわりがあるのか掃除は彼に任せて我々は手を出すなって言われてて」
ハハっと、黒柳は声にならない苦笑いをし鈴木の斜め後ろに目を移す。そこには、グレーのスーツを着た肩まで髪が伸びた若い女が、申し訳なさそうに深く俯いて立っている。
黒柳が慌てて立ち上がる。
「早いね」
「細川さんにはお昼には連れてくるって伝えてあるわよ」
「……ご飯は食べた?」
俯いている女の顔を覗き込むように優しく尋ねた。
グレーのスーツの女は、俯いたまま力なく首を横に振る。
「よかったら、まだ手をつけてないから僕の食べる?」
「お腹空いてないので……」
消え入りそうな声で固辞する。
「鈴木さんは?」
「私は終わってから外で食べるわ」
黒柳は陰で「ログボのサビ管」と呼ばれながらも、本当に人柄がいい。それがここ『輝き組』就労移行支援所で中間管理職を任されている最大の理由である。
一方、鈴木はこの事業所のスタッフではなく、個人で相談支援専門員をしているいわばエージェントのような立場だ。
「そんなことより黒柳さん、面談室は空いてるの?」
黒柳は湯呑みのお茶をクィッと飲み干すと、引き出しから鍵を手に取った。
サンダルをパタパタと鳴らしながら、「こっちに来て」と先導して歩き出す。廊下に出て、隣の面談室の鍵をガチャリと開けた。
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