必殺!!支援員~壊れた歯車たちへの鎮魂歌(レクイエム)』~ ♯1 ログインボーナス:黒柳サービス管理責任者
「黒柳さん!」
オフィスに甲高い怒声が響いた。
いや、正確にはここは都内のオフィス街にある雑居ビルの3階のスタッフルーム。
就労移行支援所『輝き組』。
「は、はぃ。所長」
黒柳と呼ばれた、妙にだらしなさが漂う黒縁メガネの男は慌ててドタドタと駆け寄る。所長と呼ばれた、神経質そうな細身の男のデスクの前へ。
「ど、どうしましたか?」
黒柳はおどおどしながら所長の顔色を窺う。
「どうしましたか、じゃありません。この書類、サインがしてないじゃないですか」
所長は書類を指さし、鋭い視線を黒柳にぶつける。
「それとここ。間違ってる。……まったく、いつになったら仕事を覚えていただけるのか」
皮肉たっぷりの、辛辣な指摘。
「はは。いやぁ、まいったな」
頭をわしゃわしゃと掻きながら、黒柳はにやけて笑った。
「笑っている場合ですか。貴方ねぇ、陰でなんて呼ばれているのか知っていますか?」
「いやぁ、なんでしょう」
「ログボのサビ菅ですよ」
「……ログボ?」
「ログインボーナスの略。事業所に来ているだけのサビ菅」
「うまいこと言いますねぇ」
「感心している場合ですか!」
所長は呆れ果て、手を払う仕草をした。
「はは……」
黒柳は書類を手に取ると、声に出さずに笑いながら自分の席に戻った。
「そういえば黒柳さん、今日午後から鈴木さんが見学の方を連れていらっしゃるのを覚えてますか?」
所長が、神経質そうな顔をさらに引き締めて問いかけた。
「あぁ、はい……」 「私は、午後から用事があって居ないので対応おねがいしますね」 「どちらにお出かけで?」
黒柳は頭をぽりぽり掻きながら、にやにやと笑った。彼なりのおべっかなのだろうが、所長には全く通じなかった。
「貴方には関係ありません。いいですか。くれぐれも失礼がないように!」
所長は冷たく突き放すと、鞄を手にしていそいそと事業所を出ていった。
就労移行支援所『輝き組』は、障がいがある利用者が就職準備のために通う福祉サービス事業所だ。主に身体障がい、精神疾患、発達障がいのある人が利用している。
黒柳は、ここでディレクションを担当する「サービス管理責任者」という役職に就いている。しかし、あまりに仕事ができないため、スタッフや利用者に陰で「ログボのサビ菅」と呼ばれていた。
所長の細川は黒柳より少し若く、いわゆる年下上司だ。黒柳の直属の上司として日々厳しく指導しているが、暖簾に腕押し。当の本人は、あまり響いている様子はなさそうであった。
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