必殺!!支援員~壊れた歯車たちへの鎮魂歌(レクイエム)』~ ♯0 『復讐代行、承ります』
〜あらすじ〜
都内の雑居ビルにある就労移行支援所「輝き組」。そこには、無能と蔑まれるサビ管の黒柳、貫禄あふれる相談員の鈴木、強面の剛田、気だるげな一ノ瀬、チャラい新田がいた。彼らの「表の顔」は、障がい者の社会復帰を支える献身的な支援員。しかし「裏の顔」は、法で裁けぬ悪を討つ冷酷な復讐代行チームだった。
ある日、夫をパワハラで亡くし、自身も性暴力の被害に遭い心を壊した朝倉結菜が訪れる。彼女が差し出したのは、全財産800万円。標的は夫を死に追いやった会社の同僚を含む四人。支援員たちは「裏の個別支援計画」と称し、一人ずつ確実に標的を破滅させる残酷な罠を仕掛けていく。救済か、私刑か。絶望の果てに、真の「社会復帰」を問うノワール・ミステリー。
「あいつらのせいで……私の夫は……」
若い女の声が、狭い事務室に低く響く。
堰を切ったように、彼女はどっと泣き崩れた。
薄い灰色のスーツに、肩まで伸びた黒髪。まだ若いその艶やかな髪には、過酷な現実を物語るように白いものが数本、混じっているのが見てとれる。
窓の外はすでに帳が下りている。部屋のの蛍光灯はまだ点灯しておらず、窓から差し込む街灯の淡い光が、彼女の髪の白くなった部分を、まるで冷たい結晶のようにキラキラと光らせていた。
背後から、そっと彼女の肩に手が置かれる。
その手の主は、細い指先に鮮やかなネイルを施していた。
「それで……復讐がしたいと」
青白い顔が、薄暗がりの中でより一層白く浮き上がる。切れ長の目をした艶やかな女が、幽霊のように立っていた。
「いくら出せるんだ」
野太い男の声が部屋を震わせた。
大柄な体躯は、座っているだけで威圧感を放つ。捲り上げた袖の下で、鍛え上げられた腕の筋肉と血管が、毒蛇のようにのたうっていた。
ふと視線を落とすと、部屋の隅に、猫背で丸まった女がもう一人。
「めんどくさ……」
気怠そうに壁の方を向き、長い髪で顔を完全に隠している。
「端金じゃねーだろーな?」
部屋の入り口方から声がした。
若い男が、ドアフレームに身を預けて立っている。金髪にピアス。そのチャラついた外見には、この陰惨な空気は似合わない。
「ここに……定期預金を解約したお金と、私の障害年金で貯めたお金が……」
女は震える手で傍らのカバンを探り、重みのある包みから現金の束を取り出した。
「800万円あります。どうかこれで、夫の恨みを……」
それを見て、金髪の男が陽気に言い放った。
「端金じゃねーか」
「いや……でも、もうこれしか……」
女が絶望に項垂れる。
女は思い出したかのように鞄から財布を取り出した。その手から、切れ長の目の女がスッと財布を取り上げ、テーブルの札束を取った。
「わたしは、乗ったわ。ルーキー、あんたは乗らないんだね?」
「ちょっと、待ってよねーさん。俺も乗るよ」
ルーキーと呼ばれた金髪の男は、ガッと札束を掴み取ると、再びドア前の定位置へと戻った。
「許せないよ。人の弱みにつけ込んで。……ゴウ、ノラ。アンタらは?」
「俺も、車を変えたばかりからな」
ゴウと呼ばれた大柄な男も、泣き崩れる依頼人の前に積まれた札束を手に取った。その見た目には似つかわしくない器用な手つきで、札束を数え始める。時折、親指を舐める仕草が、その場の冷酷さを際立たせた。
「やらないとは、言っていない」
気怠そうに、ノラと呼ばれた女が立ち上がり、テーブルに残った札束を手に取って部屋を出ていく。ルーキーがその後を追って、闇の中へ消えていった。
入れ違いに、中年の男が部屋に入ってきた。
黒いビジネススーツ。中肉中背。無精髭。黒斑の眼鏡をかけた、どこにでもいる冴えない風貌。
「おぅ、終わったか?」
男が、去り際のルーキーに声をかける。
「ウィース。じゃあクロさんまた。ノラちゃん待ってよー」
ルーキーはクロと呼ばれた中年の脇をすり抜け、小走りに去っていった。
クロは、切れ長の目をした女の方に視線を移した。
「で、ベル。どうなった」
「全員一致で採択よ」
「じゃあ、どれどれ。俺の取り分と」
クロは中腰になり、残りの札束を手に取ると、ジャケットの内ポケットへ捩じ込んだ。
立ち上がり際、彼は泣き崩れる女の背中に向かって、短く吐き捨てた。
「あとは、任せとけ」
彼らが去った後の部屋には、消えかけた街灯の光と、女の啜り泣きだけが残された。
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