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【短編恋愛コメディ】踊る私、恋した相手はウシガエル

「グゴォ!」

この国では、ダンスのリズムが人間関係を決める。

必死にハシビロコウダンスを踊っていると、足元で謎の生き物が声を上げていた。

ウシガエル。

え、きも……。
しかもなんかリボン付けてる。

「フゴォ!」

あ、声も無理。

「あ、私、隣の部屋の山田です」

話せるんだ。

「ウシガエルごときが何の用」

スッ……。

ウシガエルが、短い足をズラす。

ハシビロコウダンスに合わせた裏拍を刻み始めた。

「……やるじゃない」

こいつ、ただ者じゃない。
息ひとつ上がってないんだから。

負けじと私も直立不動を保ち、ウシガエル……いや、山田に負けないように、素晴らしいタイミングで腕を伸ばし横腹をかく。

完璧だ。

山田は、私の脇腹をかく動きに合わせて、静かに裏拍を刻み続ける。

……こいつ、気持ち悪いのに、なんか気になる。

私にここまで着いてこれるやつ、出会ったことない。

山田のテカっている全身から汗が噴き出し、宝石のように光り輝いている。

「……グゴォ」

暫くした後、山田が窓にぴょんと飛び乗る。

「え、ちょ、行っちゃうの?」

寂しそうな顔をしている自分に気づき、はっと目を逸らした。

山田は、振り向かずに立ち去った。

「……」

山田の残した、湿った足跡を見つめる。

ズキン。

胸が少しだけ締め付けられていることに、私は気づかないふりをした。


「……やっちゃった」

数日後、仕事でミスをした私は、部屋の隅で正座をしていた。

発注ミスだ。

"地獄の30連勤!血と涙の爽やかジュース"を100本仕入れるはずだったのに。

ウシガエルに脳を焼かれた私は、"脂マシマシ!天国への高速道路にご案内ジュース"を仕入れてしまった。

「グゴォ」

ま、まさか……!

キュン。

胸の奥が、熱く疼く感覚がした。

って、何期待して……!

足元を見ると、ウシガエル、いや、山田が座っていた。

足元が湿っている。

……山田の足跡だけじゃない。

私の、涙。

「……見ないでよ」

ペタ。

そっぽを向いた時、山田が短い足で私のくるぶしに手をついた。

ちょっと気持ち悪い感触。

でも、あたたかい……。

「……今日は、裏拍は刻みません。表拍で、泣いていいですよ」

「な……!」

目元が滲んだ。

ボロボロと涙がこぼれる。

山田は、静かに、全身で私の涙を吸収していた。


「……あなたは、素敵ですよ」

山田は柔らかい声でそう言った。

「半年前から覗いてました」

「体の弱いお母様を助けるために、優勝して稼ぐ努力をしてます」

そうだ。
この間、ポテトダンスで賞をとった。

優勝までは、いかなかったけど。

「僕は、ただの人間より、あなたの涙を吸える」

「えっ……それって」

山田は、ハッとしたように湿った足を離した。

「……今日は、もう行きます」

前よりも慌てたように、窓から去ってしまった。

「行かないでよ……」

私は、部屋の隅でうずくまった。


おかしい。
いつもならキレのあるハシビロコウダンスも、今日はどこか覇気がない。

「山田のせいよ……」

ピンポン。

たまらず、隣の部屋のベルを押した。

……ん?

「だから……って!」

中から、声が聞こえる。

ガチャ。

思わずドアノブを回すと、鍵が開いていた。

入った瞬間、体が硬直した。

つり目の美人な若い女と、山田の姿。

女は苛立っているようで、肩で息をしながら立ち尽くし、山田を見下ろしている。

「僕は、君のもとにはもう、戻る気は無い」

空気の温度が数度下がった。
山田のねっとりした声が、酷く冷たく感じられた。

「……言ったわね……」

女は、足をあげた。


山田をヒールで踏み潰そうとしている……!

土足で部屋に入るなんて、有り得ない!

「待ちなさいよ!」

私は思わず声を荒らげた。

山田も女も、一瞬でこちらを向く。

「フゴ!?」

「な、誰よ!」

土足女は、とっさに山田に手を伸ばした。

「ちょ!私の山田に何して……!」

私が叫ぶと同時に、山田が必死にもがく。

しかしウシガエルなので、無力にもゲージに入れられてしまった。

グェ……と山田が情けなく鳴く。

「返しなさいよ!」

土足女は、口角を不気味に吊り上げた。

「山田のダンスは使える。こいつと動画を撮れば、すぐバズるんだから」

「……は?」

全身が冷える感覚がする。

山田がゲージの中で震えているのが見える。

……有り得ない。
私の山田を、そんなふうに扱うなんて。

「……勝負よ」

「何?」

私の言葉に、土足女が眉をひそめた。

「……見てなさい、私のダンス」

山田が目を見開く。

空気が一変した。

ヒュンヒュンヒュン!!

風きり音がする程の、高速脇腹かき。

アドリブで、ポテトダンスのステップもミックスする。

「な、こ、これは……!?」

怒りのおかげで、切れ味は過去最高だ。

「うっ!風強い!私の前髪が!」

知らんがな。

更に速度を上げて脇もかき始めると、土足女は床に倒れ込んだ。

「嘘!私のマーケティング戦略よりもストイックすぎる……!」

女は悲鳴をあげながら、這うようにして部屋から出て行った。

ぴたり、と体を静止させる。

「大丈夫!?山田!」

私はすぐにケージを開けた。

グゴォ、という声とともに、山田がペタペタと私の手に乗ってくる。

「好きです。あなたのことが」

「や、山田……!」

山田は、私の手にキスをした。

その瞬間、リボンが光る。

ボフン!

……え?

「ウシガエルじゃん」

「ウシガエルです」

リボン光ったのなんだったんだよ。
呪い解けるんじゃないのかよ。

「これからも、あなたのそばで、愛を刻ませてください」

山田はへにゃりと笑ったあと、私の足元で、初見のポテトダンスを踊り始めた。

完璧だ。

「……やるじゃない」

私の顔は赤くなり、ゆるんでいた。

夜が明けるまで踊り続けた。


『おおっと!ここで高速風切り!これは大幅加点です!!』

審査員の声が響き渡る。

1年後、ペアコンテストで優勝するのは、また別の話。

ーー

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