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「未完成の神話」 episode0 ビスの記憶

「私についてきなさい」
つめたい手が、私の手を握りました。
「お兄ちゃんは…?ママは?パパは?」
寒くて、汚くて、息がしにくかった…。
知らない国に行って、強く、勇敢に、たたかった私のかぞくが、みんな、どこかに行ってしまった。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!行かないで!」
土ぼこりがふわふわと舞っているように見えました。
その中に、大好きな兄の背中が消えていきます。
私のことを置いていくの?どうすればいいの?たたかいにかったの?

「あなたたちは負けました」
つめたい手の持ち主が、空中に向かって話しました。
「まけ…?まけって何?お兄ちゃんと一緒に行くの!」
「まけは、あなたの家族が消えることです。」
「ママと、パパは、どこ?」
「…さぁ。」
私は、その消えそうな、でも空気を貫くその声の主の顔を見ようとしました。
でも、銀色の光がその人の顔を照らしていて、眩しくて私は目を細めました。

「私と来たら、あなたのお兄さんは喜びます」
私は、土ぼこりの向こうにいる兄を探そうとしました。
でも、遠くに行ってしまっていました。
「お兄ちゃん…!」
私は泣き出しました。
「…泣かないで。声を殺さないと。殺される」
その人の声がはっきりと、私の近くに来ました。
私はびっくりして、泣き止み顔をあげました。
その人の深い闇のような瞳が私を覗き込んでいました。
その人の髪は本当に銀色に輝いていて、肌は真っ白な雪のようで、
なんだか寂しそうな一人きりの王子様に見えました。
その人の瞳から、一筋光が流れました。
「なんで、泣いているの…?」
「私も、あなたのお兄さんが行ってしまったことが、悲しいから。……生きていたら、私の友達になったかもしれないのに」
私は、その人のつめたい手を握り返しました。
握り返さないと、その人がどこかに消えていきそうな気がして、怖かったから。

その長い悲しい一日から覚めると、私は親なしの奴隷になっていた。
この国の奴隷として働く日を送っている。でも、ここは幸せな国だった。
家族を亡くしても、この銀色の髪の悲しい国の王子のお姫様になった気分だったから。
この夢を崩される権利は、ない。


家族へ。
私が良い夢を見ていることをここに告白した。
許してね。
ここより幸せな天国で見守っていてね。
愛するお兄ちゃん、お兄ちゃんの背中は忘れていません。また会えることを願って。
ビス


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