ニデック不正会計|創業者永守氏2011年の選択@#12生きた教科書を読む
リスクコラム中井です。
世界的なモーター製造販売企業「ニデック」(京都市)の不正会計について。世界40か国、10万人の従業員がトップの圧力で金縛りにあっていたかのような、理不尽な話です。広く報道された具体的なプレッシャー発言には触れずに書いていきます。(☞欄外①参照)
■経営トップの日課
ずっと前、千葉で取材していたころ、あの遊園地の経営トップから日課を一つ教わりました。レジャー文化を担う誇りと責任感を秘めた人でした。
「アトラクションの出口で、ゲストの顔や態度を見る。すると、アトラクションにどの程度満足してもらえたかが分かる」
入場者データの数字ではなく、皮膚感覚で満足度を確認し続ける。客足の「潮目」が変わる瞬間を見逃さないためのルーティンワークでした。施設に巨額投資する経営者の“恐れ”が、その現場通いから読み取れました。
■リスクの高まり
トップの流儀はどこか通じるものがあると、今回改めて思いました。
「ニデック」の創業者・永守重信氏も、ある種の恐れから現場を大切にしていたのです。
不正会計を調べた第三者委員会の調査報告書(2026年2月27日付公表版)を読むと、委員会のヒアリングに永守氏が答えています(P103)。
<「2010年頃までは、工場に直接出向いて現場を見る機会も多く、現場の役職員と議論をして、無理な計画は改めさせることもできたが、グループの規模も拡大し、現場に頻繁に行けなくなってから、おかしくなってきたと思う」>
報告書はこうしたコメントを例示して、<永守氏は、業績目標を厳しく追求するが故に会計不正が行われるリスクが高まることは認識していたと考えられる>と分析します。副作用的な不正会計を恐れての現場通いだったようです。
■不正を闇で処理
永守氏の著作を読むと、現場通いの理由がもっとハッキリ書いてあります。(☞欄外②参照)
<原理原則⑰ うまくいっていないことを知るために現場に足を運び、現場を知る。それがリスク管理の要諦である>
「リスク管理の要諦」が実践出来なくなった2010年頃以降、永守氏は代替策として何を選択したでしょうか。
報告書の記載で一番タイミングが合うのは2011年2月、「特命監査部長」A氏の登場です。
子会社にいたA氏は、永守氏に一本釣りのような形で呼び寄せられ、<懐刀>になりました。
永守氏に届いた告発投書などをもとに、会計不正事案や役職員による着服・横領事案等を、1人で調査・処理したようです。<不正を闇で処理する存在>。報告書には、そんな社内の証言も載っています。(☞欄外③参照)
■2011年のターニングポイント
A氏の活動は2020年6月までの9年間。報告書によれば、ニデックの不正会計が外部の法律事務所や会計事務所に知られるようになるのは、その末期にあたる2018年度下期以降です。
永守氏は、単騎独行を信条とするA氏を使って不正会計を水面下で処理し続けたものの、あふれ出した不正会計情報は押しとどめられず、第三者委員会が設置されて今回の報告書に繋がっていきます。
報告書をそんな風に組み立て直して考えてみると、やはり2011年にA氏を取り立てた永守氏の選択が、最大のターニングポイントです。
その時に、自らの分身を利用するのではなく、不正会計を処理する「表の仕組み」をしっかり構築し、機能させていれば、歴史が変わったかもしれません。
幾千万の選択を重ねて組織を発展させた永守氏なのでしょうが、これは大きな選択ミスだったと私は思いました。
■「潮目」を読んで正しく選択
過激な言動や状況にばかり注目すると、「特異な例外案件だよね~」と油断(=安心)して、本質を見逃さないか?
今年1月以降、トップの言動で組織の仲間が苦しめられるケースをいくつも取り上げてきた(☞欄外④参照)けど、今回も含めて全て例外案件なのか?
日本社会では、コーポレートガバナンスとかコンプライアンスは健全に機能していると安心して良いのか?
私は気が小さいので、諸々心配しながら、ニデックの報告書も読み終えました。
リーダーは、時代の「潮目」をしっかり読んで正しく選択する
組織で働く私たちを守るための、そんな教訓に辿り着きました。
◆ ◆ ◆
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。子や孫の世代に後ろ指をさされないように、また、頑張ります。 <了>
【欄外①】「ニデック」は創業者・永守重信氏が一代で築き上げた企業グループ。費用の決算を先送りしたり、収益を過大計上したりする経理操作が多数行われており、正しく計上しなおせば純資産が約1397億円マイナスになるそうです。調査報告書はこちら→260303-01jp
【欄外②】「人生をひらく 困難に打ち勝つための原理原則50」P74~76
【欄外③】興味のある方は、報告書P64~70を。蛇足ですが、A氏の話を聞かないと、不正会計に関わる永守氏の責任・関与も確定できないと思うのですが、どうでしょうか?
【欄外④】紙一重で運よく生き延びた内部監査部長の話@生きた教科書を読む|リスクコラム中井
*ロクの祈り「あした天気になあれ」

