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紙一重で運よく生き延びた内部監査部長の話@生きた教科書を読む


  リスクコラム中井です。
 
 会社の内部監査部門は、組織がルール通り運営されているかどうかの最終チェック役です。その責任者自らが不祥事に関与したケースが公表されました。かつて内部監査部門にいた私は、運よく生き延びたケース。たぶん、紙一重だったのだと思います。
 


■「最後の砦」でありながら


 3年後に設立100年を迎える上場企業「エア・ウォーター株式会社」は、産業ガスの分野で業界2位、グループ従業員は2万人を超えるそうです。外部の弁護士らで作る特別調査委員会が、調査報告書(2026年2月9日時点版)を公表しました。(☞欄外①ご参照)

 本体とグループの計37社で損失計上先送りなど不適切な会計処理が行われ、2020年度以降の営業利益が計209億円多くなっていたのだそうです。
 決算:エア・ウォーター最終赤字100億円 26年3月期、減損や不適切会計で - 日本経済新聞
 
 報告書を受けて再発防止策もリリースされました(☞欄外②ご参照)。ポイントを抜き出してみます。
 
・不適切な会計処理の一部に経営トップやマネジメント層の関与が認められた
・組織運営は強いトップダウンによる指揮命令系統で運用され、ハラスメントと受け取られかねないマネジメントがあった
経営トップが強力な人事権を持ち、意思決定のプロセスがトップの意向に沿うように優先されたことが、不適切処理を引き起こす要因のひとつだった
・内部監査部門は、組織の健全性を守る「最後の砦」でありながら、責任者が不適切な処理に関与するなど、グループ全体へ十分な牽制を果たせなかった

■紙一重で運よく生き延びた内部監査部長の話

 私が内部監査の責任者をしていたのは、10年以上前です。内部監査部門は社長直属で、社長の指示を受けてグループ内をチェックします。経営トップの社長と2人で打ち合わせる機会は何度もありました。

 革椅子の背にもたれてゆったりと座る社長、大きな木の机があって、コチラは書類を抱えて立ったままーー当たり前ですが、2人の圧倒的な力の差をそのまま映す光景だったなと思い出します。
 
 ただ、当時の私はそれなりに勤勉でした。普段ボーっとしながら、頭の中では危険なシミュレーションを重ねていました。
 
 「社長が不正をしていたら?」というのも、隠しテーマの一つでした。
 
 【プランA】では、取締役をチェックする監査役に相談しようと決めていました。監査役にうまく処理してもらうのが、本来の姿でもあるからです。
 でもその時、「不正」が酷くないと監査役にジャッジされてしまったら、そして社長はそのままの地位だったら……。私の方は、ただでは済まなかったでしょう。【プランB】以下の選択肢を選ばなかった自分を呪うしかありません。
 
 エア・ウォーター社の内部監査部門責任者にどんな葛藤があったのかは、調査報告書を読んでも分かりませんが、経営トップが別の人だったら「不適切な処理」に関与することもなかったでしょう。【プランA】や【プランB】を仕掛ける必要がないトップに仕えた私が、強運だったというだけのことです。
 

■すべてはトップ次第の危うい組織構造

 企業運営で重視される「ガバナンス」とは組織を管理・統治すること、「コンプライアンス(法令順守)」とは管理・統治の物差しみたいなもの。そして、内部監査は経営トップの意を受けた「最後の砦」――。
 
 経営トップが正しくなければ、ガバナンスもコンプライアンスも内部監査も全て正しくなくなる。エア・ウォーター社の調査報告書は、そんな危うい組織構造に警鐘を鳴らしているのだと読み取れます。
 
 エア・ウォーター社は例外的なケースなのでしょうか? 近く取り上げることになると思いますが、やはり不適切な会計処理が調査されているモーター大手「ニデック株式会社」は似た背景のようです。これまで投稿した案件でいえば、「いわき信用組合」も、「福井県セクハラ報告書」も同じです(☞欄外③ご参照)。組織のトップが正しくなければ、組織を構成する私たちは苦しめられるのです。
 

■組織の見分け方をリスクコラムで読み取る

 では、どうすれば良いでしょうか?
 
 時代のせいにするのは、正しい組織トップの方々には失礼かもしれませんが、コンプライアンス概念が普及し始める2000年ごろより前の“昭和感覚“で支配された組織には、注意が必要かもしれません。そんなケースに対する私のアイディアは二つです。
 
①   組織のトップに就任する人と組織との間で詳細な契約書を結んで、軌道を外れた場合には辞任となるような明確なスキームを作って公表しておく 
②   これから就職・転職する人たちは、組織を見分ける力を養う、リスク管理力を鍛える。だからたまには、こんなリスクコラムを読むのも悪くないと思うのです(とさりげなく、PRしてすいません)
        ◆  ◆  ◆
 
 ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。子や孫の世代に後ろ指をさされないように、また、頑張ります。       <了>
 
【欄外①】特別調査委員会の調査は途中段階だそうです。最終報告は改めて出るので、事実確定はその時になります。同社HPに掲出された報告書は全290ページです。
【欄外②】「再発防止策(骨子)の策定に関するお知らせ」。同社HPにあります。pdfFile.pdf    
【欄外③】「不真面目」が求められる組織/SNS鮮烈な一撃/いわき信組不正@生きた教科書を読む|リスクコラム中井
権力者セクハラを抑え込む二つの小さな提案/コンプラ警句を掲げる@生きた教科書|リスクコラム中井

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