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創作大賞小説部門応募作 『山の民 サンカ』 その2 日本にはサンカと呼ばれ蔑まれた山の民が居た。彼らを書き残したい。


あれは獣だ

 古代、ヤマトタケルの時代を想像してもらえればいい。日本は、まだ、農耕民族が完全に社会を支配していたわけではなく、アイヌや毛人と言われる縄文的採集生活をして定着を欲しない種族が数多くいた。彼らは、冬は穴に寝、夏は隠れ家に住み、山に登ること飛ぶ鳥の如く、草原を走ること獣の如しと、日本書紀にも記されている。その生き残りの種族がサンカではないか。そんな想像もできる。
 そんな時代、農耕民族である我々の祖先からすると、
 あれは、獣だ。
 そう思っていた人もいるのではないか。
 獣たちを追いかけ回す彼らを同じ人間とは思えなかっただろう。実際、持ち物は移動出来るだけのものしか持たず、食べ物が必要なら、そのあたりから調達して食べる生活は、住居、食料、農具や衣服などを所有し保存する農民の生活からすると、人間よりも獣たちの生活に近いと思っても間違いではないない。
 しかし、土を耕さない彼らからすると、屈んで土ばかりいじくっている我々の祖先を何なんだあいつらは、つまらない奴らだと思ったに違いない。
 そんな時代では、大人たちは子供に
「彼らは獣だ、近寄ってはいけない」と教えただろう。子どもたちは、見た目が同じで、言葉も話すのであれば、自分たちと同じ人ではないか。なぜ獣と呼ぶのか理解できなかったに違いない。そんな子どもたちには、彼らが狩りをしている姿を見せたりしただろう。

 

狩人


 その日、村の子供達が集められ、大人たちに連れられて小高い丘の上に行った。「よく見ておくといい」と村長が言った。何が始まるのかと待っていると、「うおぅ〜」「きえぇ〜」という奇声が聞こえて来た。何が始まるのか、僕たちはその声に驚き、緊張した。
 見たこともない巨大なイノシシが林の中から走り出てきた。その周りを腰の部分だけに布を巻いている男たちが走っている。
 彼らは「うおぅ〜」だの「きえぇ〜」だのと奇声を発しながら草原を走りまわっている。手には武器のような細い尖った棒を持っていた。その走る先には、巨大なイノシシがいる。
 彼らの足は早い。風を切りながら走る。獣の習性もすべて理解しているのか、イノシシがどこをどう走るのかがわかっているかのように無駄なく走り、イノシシの先にまわった。
「イノシシよりも早い」大人の一人が驚いて声を上げた。大人たちにとっても見慣れた光景ではないのだろう。
 イノシシの先にまわると、体の向きを変えて、逆にイノシシに向かって走っていく。ぶつかる。見ている僕たちに緊張が走った。目をつぶった子も居た。突進してくるイノシシとぶつかる。
「危ない」見ていて思わず声が出た。
 もちろん、彼らはぶつかるようなヘマはしない。ぶつかるその刹那の間で「いえぃ」と奇声を発し飛び上がり、飛び上がったその下をイノシシが走り抜けた。走り去ったイノシシの後ろにすっと着地した。イノシシは、数歩走りよろめく。
 何が起きたのだろう。みんな身を乗り出して見ていた。
 先ほどイノシシの上を飛び越えた人が今度はよろよろと走るイノシシの背中に飛び乗り、何かを抜き取った。石を削り作った武器、石鏃だった。イノシシの上を飛び越えながらイノシシの背中に石鏃を突き刺していたのである。村にも石鎚はあるがイノシシを一撃で殺せるほど鋭利ではないし、そんな使い方を大人たちがしているのを見たことがない。
 石鎚を抜いた瞬間、イノシシの背中から血が吹き出した。やはり彼らは大人たちが言うように獣なのかもしれない。
 弱ったイノシシに数人の仲間が走って近寄り、とどめを刺した。その姿は獣だった。日々土にいじり天候を気にして、秋にみんなで収穫し、喜びの宴で祝う僕たちとは違う。
 その後、彼らはイノシシを切り裂いた。その肉片を持ち、僕たちのほうに向かって大きく掲げた。それに呼応するように村長と数人の男たちが丘の上から降りていった。背中に米を背負っている。村長とイノシシを仕留めた人とが何かを話し、米と肉を交換して戻ってきた
 その日の夜は、イノシシ肉を焼いたり煮たりして村の総出の宴だった。その宴の中で大人たちが話してくれた。
「今日はイノシシだったが、彼らはクマにでも恐れず立ち向かい、倒す。離れた場所から毒を塗った矢を飛ばし、弱れば、石鏃や刀でとどめをさす。熊に立ち向かうなんて、我々には到底考えられない。時には、人間の高さの何倍もある木の上に潜み、獣が通るのを待ち、通れば、飛び降りる。地面に立った時には、獣は倒れる。倒れた獣を見れば、その体に石鏃が深く突き刺さっている。彼らは我々とは違う。獣だ」
 体を震わし怖がる子も居た。今日見た光景を思い出したのだろう。僕は体を震わせなかったが、怖かった。大人たちは話しを続けた。
「彼らは、我々がこの地に来たときにはすでにこの地に存在し、山や野を駆け回り狩りをし、木に登り木の実を取った。暑さ寒さに負けない頑健な体を持ち、冬でも川や沼に潜り魚や亀を捕る。火で暖をとるようなことはせず、火は料理をする時以外使わない。そして、時期が来れば、別の場所へと移動する」
「なぜ移動するの。家に住めばいいのに」誰かが質問した。僕も同じことを思っていた。
「狩りや漁の場所を求めて移動するのだろう。彼らには彼らの生活がある」そんな生活は大変だと思った。
「しかし、彼らも猟をしない時は、我々と同じで子供を可愛がり家族仲良く暮らす。我々とも話すこともできる。しかし間違ってはいけない。彼らと我々は別だ。彼らの暮らしがあり、我々には我々の暮らしがある。お互いの生活を脅かすようなことはしてはいけない」大人たちの話しは終わった。怖がる僕たちに向かって最後に、
「子どもたち、怖がらなくてもいい。こちらから近寄らなければ彼らから近寄ってくることはないし、彼らが我々を襲ってくることはない」と話しを締めくくった。
 それから何十年か経ち、自分も大人になり、彼らの狩りの様子を何度か見た。やはり、彼らは獣だと思った。しかし、同時に彼らと食料の交換も何度かした。米と肉との交換だ。それに彼らは草の種類にも詳しく、薬草になる草ももらった。交換するのはすべて米だった。彼らは米が大好きだったのだ。交換する時になんどか話したが、彼らはみんな温厚で我々と全く同じ人だった。子供の時に聞いた大人たちの話しは本当だった。
 社会ができる前、古代の日本ではこのようなことは実際にあっただろう。

続く

#創作大賞2024


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神石直樹 チップありがとうございます。めっちゃ励みになります。ホントに嬉しいです。