妻のナイトは、最後までナイトだった
以前うちの15歳のトイプードルの話を書いた。
白内障で目が見えなくなっても、足が悪くなっても、ボール遊びを楽しんでいたトイプードルの爺さんの話だ。
とにかく妻のことが大好きな犬でね。
大好きというより、たぶん彼の中では…妻は「守るべき人」だったんだろうな。僕はそう思ってる。

しばらく前から、その爺さんがご飯をあまり食べなくなってきたんだ。
もう15歳だし、昔からご飯が大好きなタイプでもなかった。
とはいえ…体もずいぶん細くなってきた。
フードを変えたり、ふやかしたり、小さい粒にしたり、大好きなバナナを添えてみたり。
変えると最初の何回かは食べるんだ。
でも、またすぐ食べなくなる。
その繰り返しで病院に何度も通ったんだよね。
そのうち水をよく飲むようになってきて…ご飯の量はいっそう少なくなってきてしまったんだ。
病院では腎臓の数値が悪いと言われてね。
腎臓サポートのフードに変えたら少し食べるようになったんだ。
「ああ、これなら大丈夫かもしれない…」
でも、その安心は長く続かなかった。
ここ数日ほとんど食べてない。
大好きだったバナナも食べなくなった。
水も飲まなくなって、小さくなって寝ている時間が大半だ。
病院で点滴をし水分補給をしてもらった。
先生は「2、3時間くらいしたら少し元気になると思う」と。
でも帰ってきても大きくは変わらなかった。
ソファで横になったまま、ぐったりしている。
妻が言った。
「足が冷たくなってきてる」
…何度か、もうだめかもしれないと思ったことはある。
咳が増えてご飯を食べれず、体重がぐっと減ったこともあった。
足を骨折して手術して、医者には歩けなくなるかもといわれたこともある。
そのたびに、こちらは覚悟する。
でも彼は戻ってくる。戻ってくるんだよ。
何度も何度もさ。
体力なのか、気力なのか、妻への愛情なのか。
正直よく分からない。
でも彼は理解できないレベルで何度も奇跡的に戻ってきた。
だから今回も、そう思ってしまっていたんだよね。また戻ってくるんじゃないか、と。
でも今回は違った。
彼は妻のことが本当に好きだった。
妻が出かければ、何時間でも玄関の前で待っている。
妻がお風呂に入っていれば、入り口でずっと待っている。
朝になれば、妻の寝室のドアの前で待っている。
足を骨折して手術して、その後はずっと後ろ足を引きずってる。
今はご飯もあまり食べていなくて、体力もないはずなのに、それでも足を引きずりながら玄関の前で待っている。何時間もだよ。
そこまでして待つんだな、と思ったりもした。
この犬は本当に妻を大好きだし、守るのは自分なんだと思い続けていたんだと思うんだよね。

白内障になる前、骨折前のことだ。
2番目のポメと彼、僕と妻で大きな公園に行ったことがある。
山の方まで入ったら、少し帰り道が分からなくなって、だいぶ長い距離を歩くことになった。
2番目のポメは途中で歩くのをやめた。
「もう無理です」という顔をしていたので僕が抱っこした。
でも彼は違った。
「こっちだよ」
と言うみたいに、妻を先導して歩いた。
そしてちゃんと元の場所まで戻ることができた。
責任感があって、妻のことが大好きで、自分のことは二の次だ。
本当に妻のナイトだよね。疑いようがない。
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犬たちのブラッシングは、だいたい僕の役目だった。
2番目のポメは毛が多いから、膝に乗せてブラッシングするんだよ。
すると彼は、少し離れたところから、じーーーっとこちらを見ている。
トイプードルは短毛。そこまでブラッシングが必要なわけではない。
でも、たぶん羨ましかったんだと思う。
だからある日、彼を抱っこして軽くブラッシングしてあげた。
頭をブラシで撫でてあげる程度のね。
すると、すごく嬉しそうな顔をした。
誇らしげだった。
自分もちゃんとやってもらっている。
そんな顔だった。
あの顔を今でも覚えている。
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目が見えなくなってからは、警戒心が強くなって吠えることも増えた。
僕が触ると吠えて噛むので、ここ数年…彼を撫でることはできなかった。
僕はね。
でも妻だけは別なんだよ。
後ろから抱っこされても、警戒せず、幸せそうな顔してたよね。
なんなら得意げな顔だった。
妻に抱かれている時だけは安心していたんだろうね。
今日はもう、吠えたり噛みついたりする元気もない。
僕は久しぶりに彼を撫でた。
骨ばっていた。驚くほど痩せていた。
お前、こんなに細くなってまで、妻を一番に考え続けてたんだな。
そう思ったら、涙が出てきた。
8歳のポメは、なんとなく分かっているようで今日は静かにしていた。
すごく仲が良かったわけではない。
でも一緒に散歩に行った仲だし、お兄ちゃんとして見ていたんだろうね。
1歳のポメは、まだよく分かっていない。
いつも通りに仰向けで寝ている。
足の冷たさを気にして、妻がタオルをかけてあげた。
すると彼は、たぶん…安心したんだろうね。
そのまま眠るように息を引き取った。
最後は妻がそばにいて、いつも彼がいたソファでタオルをかけてくれた。
きっと彼は気づいたんだな。
休んでねと。
もう守らなくて大丈夫だよと。
悲しいなと思う。
こんなに悲しいのはいつ以来だろう。
15年以上も一緒にいたもんな。
犬を飼っていたというより、もう自然なんだよ君がいることがさ。
長ければ長いほどね。
爺さん。
君はもういないんだな。
でも、最後まで本当にかっこよかったよ。
君は最後まで、妻のナイトだった。

