人工知能という負の可能性〜『AI脳クライシス』
◆酒井邦嘉編著『AI脳クライシス デジタルは人から何を奪うのか』
出版社:集英社インターナショナル
発売時期:2026年5月
生成AI完全否定論の書です。便利だけどデメリットも多いから上手に付き合っていこうねという話ではありません。いわく、AIを使うな! AIはヒトをバカにする!
編著者は「言語脳科学の第一人者」とカバーの宣伝文には記してあります。
酒井は生成AIを「合成AI」と呼びます。大規模データベースから確率的・平均的に合成するだけで、人間のように新たな何かを生成しているわけではないからです。AIは人間の言語の知識を扱えないし、言葉の意味を理解して応答しているわけでもない。ゆえにAIとの「対話」なるものも本来的な意味での対話としては成立していないというわけです。
それにしても説得力のある議論とは感じられませんでした。そもそも人間との相違をいくら列挙したところで、AIを完全否定する理由にはならないと私は思います。人間の脳活動をAIが再現できないのは当たり前の話で、それには何の不思議もありません。機械や道具が人間の脳とは違う仕組みで成り立っているからといって使うのをやめようとは誰も思わないはずです。人間の活動に何らかの補助になるから人は道具を使うのであって、それ以上でも以下でもないでしょう。
ただし、AIやデジタル機器が人間の精神活動に与える悪影響については無視できないことは確かです。それは昨今様々な学問分野から指摘されてきている事実です。本書がAIを教育の場に持ち込むことに強く反対している点には同意したく思います。レポートをAIに書かせたところで、学生の知力が向上しないことは自明なのですから。
また後半では、羽生善治やピーター・バラカン、千住博、柳田邦男との対談が収録されていて、そちらの方はそれなりに興味深く読みました。主題からはややズレますが、千住が人間と芸術の関係を述べているくだりには大いに納得させられました。
「人間が芸術作品という人工物を作ったのではなくて、自然に対する「芸術的発想」による芸術的行為が人間を作ったんです」。
至言というべきでしょう。
