「ママ、笑って遊んで?」息子の一言が、頑張り屋の私に刺さった
「ママー!あそぼー!」
「ちょっと、ごはん食べたん?!」
テーブルの上には、一口だけ食べられた鶏肉のトマト煮込み。
息子が保育園に行っている間に、つくったものである。ナス、ズッキーニ、玉ねぎ、じゃがいも、にんじん。野菜と鶏肉を切って、鍋に入れて。
その日は娘の夜泣きもあって、寝不足だった。「行きたくない」と言う息子を、9時に保育園になんとか送る。娘を遊び場に連れていき、家に帰ってお昼ごはん。おにぎりを出しても食べない娘に、冷凍うどんをチンする。
そして、なかなか昼寝してくれない娘。1時、2時...時計の針が刻々と進む。
2時30分、ようやく寝た娘をそーっと布団に降ろす。4時の保育園のお迎えまでに、夜ごはんの準備をしておきたい。昼寝をしたい気持ちをこらえ、キッチンに立つ。
3時30分、娘を起こし、おやつを食べさせる。
4時。チャイルドシートに座らない娘に「早くして!」と言いながら、保育園にお迎えに行く。
4時30分。庭で遊んで、家に入らないこどもたち。キャーキャーと歓声が響く。仕方なく、家の周りを少し散歩する。溝にハマり出す息子。「あっち行きたい!」家と逆方向を指差して泣く娘。
5時30分。ようやく家に入り、そのまま風呂に直行する。娘の髪を洗っていたら、息子がびしょ濡れのまま飛び出していく。「ちょっと待って!!」
6時。トマト煮込みと、ごはんをお皿に注ぎ、テーブルに置く。
「ごはんできたよ!」
テーブルにつくこどもたち。
しかし、食べない。
「ママ、あそぼー!」
息子が気づけば椅子から降りて、ソファで飛び跳ねている。
「ちょっと、ごはん食べたん?!」
私のしかめ面に、
「ママと遊びたかっただけなんだ〜」
息子がしなしなと呟く。
まだお腹が空いてないのかもしれない。
本当に、遊びたかっただけかもしれない。
でも、その日の私には余裕がなかった。
「ごはん食べてから!」
それでも、テーブルから離れて遊び出す息子。
私はごはんをかきこみ、「じゃあ遊んだらごはん食べなよ」と一緒にブロックで遊んだ。「ママ、つくってー」と言われて、カメをつくる。
「怪獣だぞー!アンパンチー!」
「わーこわいなー」
がっしゃーん
一生懸命つくったカメが、バラバラになった。
「ママ、つくってー?」
「...はいはい」
ため息を飲み込み、もう一度カメを組み立てる。
「ママー!ぐちゃぐちゃー!」
娘がトマト煮込みで真っ赤になった手をひらひらと振っている。
「あーはいはい」
ティッシュで娘の手を拭き、息子のところに戻る。
そのとき、突然息子がこう言った。
「ママ、笑って遊んで?」
ほっぺに指を当て、にこにこーっと顔をくしゃくしゃにする息子がいた。
......うっ。
メガトン級の痛烈なアンパンチが、私にクリーンヒットした。
ばれとった。
ちっとも笑えてなかった。
あかん。
今日は、あかん。
「ごめん、ママ笑えてなかったね」
ごろんと床に横になり、目を閉じた。
「楽しい夢を見てね。ちゅっ」
息子が無邪気にキスしてくれた。
ううう。
私の口が歪んだ。
申し訳なさと、やるせなさ。
胸が苦しい。
アンパンチの跡が、疼く。
6時にごはんを食べさせることに、そんなにこだわらなくてもよかったのかもしれない。
無理してごはんを作らなくても、よかったのかもしれない。
あの日の私は、「ちゃんとした母親」にならないと、躍起になっていた。
夜泣きで寝不足でも、保育園送迎で疲れていても、栄養のあるごはんを作って、決まった時間に食べさせて、こどもと笑って遊べる母親。
そういう「ちゃんとした母親」を頑張っている日ほど、現実は思い通りにはいかない。思い描いた1日は、ことごとく崩れていく。
そして、疲れているときほど、私は動いてしまう。いつでも、そうなのだ。
息子の妊娠中、つわりの時期に引越しをした。仕事が終わり、家に帰って、今すぐ布団に倒れ込みたい。そのくらい体は悲鳴をあげていたのに、段ボールに荷物を詰める手が止められなかった。どう考えても今やらなくていい床掃除までした。
「妊婦なんやから、無理したらあかん」
心のどこかで、その声は小さく響いていたにもかかわらず、床を拭き続けた。
次の日の朝、大ダメージをくらった私は、起きあがれなかった。仕事を休み、布団の中で涙を流した。
あのとき、私の心の中で何が起こっていたのか。
「つかれたよ」「休みたいなあ」
そんな感情をガシャンと檻に入れ、南京錠をかける「看守」がいた。
「こんなんで疲れるわけがない」
「そんなダメ人間になってはいけない」
余裕があるときは、素直な感情に従って、「ちょっと休もう」ができる。余裕がないときほど、私の中の看守は強情になり「こうすべき」が強くなる。
「ずっと家でテレビなんてダメ。外で遊ばせなきゃ」
「栄養をしっかりとらせないと」
しんどいときほど、看守は周りの目を気にして、ますます平気なフリをする。
「ええ、このくらい、大したことないですよ」
私の奥歯に、ぐっと力が入る。
それは、昼寝でもしようもんなら「体調悪いの?!」と本気で心配される家で育ったからかもしれない。気づけば私は、休むより、頑張ることを選んでいた。
昔はそれでよかった。
頑張れば頑張るほど、褒められた。
無理してでも一生懸命やることが、私の武器だった。
「頑張り屋さん」
母にそう目を細められて、素直に誇らしかった。
頑張らない私には、何も残らないと思った。
だけど、子育てはそれじゃだめだった。
「笑って遊んで?」
無理すればするほど、私からは笑顔が消えていく。
今日も、娘が夜泣きした。
布団から出られない朝、心の声に耳を澄ましてみた。檻に閉じ込められた感情が、泣いていた。
「よしよし、しんどいなあ。
がんばってるねんなあ。」
自分で、自分の腕をさすった。
肩を揉んでみた。
少し、奥歯の力が抜けた気がした。
今日も、私の中の看守が騒ぎ出すかもしれない。そんなときこそ、あの無邪気なアンパンチを、お守りにしよう。
「笑って遊んで?」

ここまで読んでくださりありがとうございます。
4歳&2歳の子育てで、毎日ヘロヘロ。
「これでいいのかな」とゆらゆら揺れながら、
ちょっと力をゆるめる視点を書いています。
またふらっと遊びにきてくださると嬉しいです。
