創作落語「俺は何番目?」
本日も一席お付き合い願います。
人間ってのは不思議なもんでしてね、
大事なことほど忘れるくせに、どうでもいいことは妙に覚えてるもんで。
彼女の誕生日は忘れてるのに、
なんでか学生時代のロッカー番号は覚えてたりする。
で、逆に聞かれると困るのが…
「今まで何回くしゃみしましたか?」だの、
「今まで何歩歩きましたか?」なんてね。
そんなの覚えてるわけがない。
そもそも覚えるもんでもない。
けど、もしそれを全部“数えてる奴”がいたらどうでしょう…
男「はぁー、よく寝たねぇ……
おいおい、ここどこだい!?辺り一面真っ白じゃないか!」
男が目を覚ますとそこは真っ白いただの空間。
すると、奥からぼやぁとした光の球がこちらに向かってくる。
光「目を覚ましたか。
単刀直入に言うが、お前は死んだ。
今あの世に送る手続き中ゆえ、しばし待たれよ。」
男「死んだ?おれが?なんで死んだんだ?
じゃあここは天国か?
にしては殺風景じゃねぇか?」
光「質問が多いな。
まず先に言った通りここは天国ではない。
その手前の待合室だ。
あと、なんで普通に天国行けると思った?
天国への移住はかなり審査が厳しいぞ?
今はそれを審議してるところだ。
そして何故お前が死んだかは教えられない。
それはお前が思い出すしかないのだ。」
男「思い出す?教えてくれりゃ良いじゃねえか!?ケチ!」
光「私への心象は悪くしない方がいいぞ?
今すぐ地獄に落とすことも出来るんだからな?
まぁ時間はまだ掛かりそうだ。
どうだ?少しゲームをしようじゃないか?」
光「お前が私に質問をしてみなさい。
全て答えてやろう。
但し…そうだな、"数えられるもの"に限定しよう。」
男「数えられるもの?」
光「例えば…お前は"今まで食った餅の数"を覚えているか?」
男「…………」
光「覚えていないだろうな。
正解は"三五五個"だ。
ちなみに内訳は雑煮で百七個、焼き餅で二一一個、その他で三十七個だ。」
男「餅好きだから千個以上食ってると思ったよ。」
光「ちなみに和菓子は今回含まない事とする。
確かに大福のようなもちもちしてる食べ物を
含めれば千個は優に越している。」
男「細かいねえあんた…けど、分かったよ。
俺は餅が喉に詰まって死んだんだね!」
光「違う。他に聞きたいことはあるか?」
男「違う?じゃあ俺は殺されたのか!?
きっとそうだ!手から銭の匂いがしてらあ。
俺は金持ちだったんだ!
お屋敷で寝てるところを盗っ人にバサッ!と…
おう、俺は"何回殺された"?」
光「"0回"だ。」
男「おお、殺されてはねぇみてぇだ。
考えてみりゃ俺みたいな品行方正な人間が殺される謂れはねぇやな」
光「お前はただの大工だ。
しかも稼ぎの少ない貧乏人だ。」
男「あんた、補足してくれんのはありがてぇが、一言多いな…
しかし俺は大工だったのか!
どおりで手が鉄臭ぇ訳だ。
つまりあれか?俺ぁ高ぇとこから落ちたのかい?」
光「…………だから数えられるもの限定だと言ったろうが」
男「はいはい!悪かったよ!
で…俺は"何回・転落死・しましたか"!?」
光「"0回"だ。」
男「殺されて、落ちて死んだ訳でもねぇ…
分かんなくなってきた。
よし、ちょっと前向きな事聞こう。
おい、俺を"何人に惚れられた"?」
光「"三人"だ。」
男「ほおー、少ない?か…
こんな二枚目放っとかれねぇ気がするが…」
光「ここに鏡が無いのが残念だ。」
男「なんか言ったかい!?
しかしそうなると誰が好いててくれたのか
気になるねぇ…隣のあの娘かそれとも…」
光「三人の内、一人は男だ」
男「……来世は是非夫婦になりたいね………」
男「いや、待て!思い出してきた…
俺には"何人嫁さんがいる"?」
光「"一人"だ。」
男「そうだ!俺は結婚してた…
俺にゃあ勿体ねぇ良い女房だっ……
ウッ!頭が…」
その時、男の記憶がバッとフラッシュバックした。
男「…俺は"何回転んだ事がある"?
全部じゃなくてここ最近でだ。」
光「"一回"だ。」
男「そうだ…嫁が産気付いたってんで急いで
医者に向かってた。
あまりに急いでたんで…足が、もつれて…
転んで…頭を打った……
情けねぇ…死に方もそうだが、嫁さんを一人にしちまった。これからって時に……」
光「思い出したか。」
男「ああ、全部思い出した……
なぁ、俺の"子どもは何人いる"?」
光「"一人"だ。」
男「そうか、無事産まれたか…
死ぬ前に顔見ておきたかったなぁ…」
光「そろそろ準備が出来たようだ。
最後に何かあるか?」
男「そうだな……
俺の子は"世界で何番目に可愛………"
いや、いいや。そんなの…
"世界で一番可愛い"に決まってらぁ。」
光「ではお別れだ。ちなみにだが…」
光「お前の女房は"二番目"と喜んでいる。」
気に入ってくれたらこちらもどうぞ
