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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第七話 一年で一番迷う夜

世界一安全な街でも、人は迷う。
はぐれないように、そう言ったのは私だ。

——でも今、私は一人で迷っている。

理由は簡単。
隣にいるはずの人が、いないから。



エラとヨル 第七話
【一年で一番迷う夜】


ヒューーン、ドーーン

大きな花火が夜空を照らす。

城塞都市リンブガルドの収穫祭が始まる合図だ。

世界一安全な都市が、一年で一番騒がしくなる夜。

色とりどりのランタンが街を埋め尽くし、石畳の上を人々の波が覆い尽くす。

「すっごい!ねぇ、ヨル!何食べる?」

無数に上がる魔導花火が夜空を明るく染める。

私は初めて見る人混みを前にして、驚きを隠せずにいた。

——どこからこんなに人が集まったの?

道沿いにずらりと並ぶ屋台の列。

呼び込みの声。
肉が焼ける匂い。
大道芸人が口から炎を吐く。

——まるで物語の世界だ。

エラは今にも走り出しそうになっている。

「はぐれないようにね」

私の声も上の空で、早速見つけた屋台に突き進む。

「ヨルー!お肉売ってるよ!」
「ねぇ、次はアレ!なんだろうね?」

エラの話は止まらない。

——これじゃ、どっちが年上かわからないじゃない。

そう思っていると、頭の上で大きな花火が上がった。

ヒューン………

ドォーーーーン!!

音が、お腹に響く。

辺りが一瞬、昼のように明るくなる。
影が消え、すべてが白く塗りつぶされた。

次の瞬間——暗闇が戻る。

私は思わず目を閉じた。

「びっくりした」

そうエラに声をかけたが、姿がない。

「エラ?」

辺りを見渡すが、人の波が押し寄せて視界を塞ぐ。

「どこに行ったのよ!」

思わず声が漏れる。

夜の街にランタンの灯りが揺らぐ。

人混みの中、私はエラの姿を探すことに集中した。

人。人。人。

どこを見ても人ばかり。

しかも、この街は真っ直ぐな道が少ない。

案内看板はたくさん設置されているが、逆に方向感覚を狂わせる。

——森よりタチが悪い。

私は今いる場所もわからず、闇雲に進んだ。

「ここ、どこよ?」

ぽつりと呟き、周りを見渡す。
エラの姿は見つからない。

——さっきまで、隣にいたのに。

こんなに人がいるのに、誰も“知っている顔”がいない。

——迷ったら、一番高い塔を見て。

ふと、エラの言葉が頭をよぎる。

顔を上げて塔を探した。

しかし、夜空を覆う無数の花火と、巨大なランタンの光が視界を遮る。

「見えないじゃない」

私はエラの顔を思い出し、少しだけ恨めしく思った。

どれくらい歩いたのだろう。

歩き回ってクタクタの足。

通りの薄暗い路地で腰を下ろし、途方に暮れる。

——この街で、一人になるのは初めてだ。

一人旅には慣れていたはずだった。

でも、今は……

薄明かりの中、通りを歩く人々の間で、
人混みの隙間に黒い色だけが残っている。

黒色のミニア。
私が見える色。

でも、見えても使えなきゃ意味がない。

「闇夜……エラはどこ?」

気づけば、黒色のミニアに向かって一人呟いていた。

——その時

黒色が、細く伸びていく。

まるで何かを探すように、ゆっくりと人混みをすり抜けていく。

「えっ?わかるの?」

そう言うと、私はその色を追った。

いくつかの曲がり角を通る。
迷うことなく、ゆっくりと色が進む。

広場の手前で、ふわりと止まった。

屋台の片隅に、見慣れた紫色の髪。

——やっと見つけた!

「エラーー!」

私が大きな声を上げると、エラは口元に指を立ててそれを制した。

エラの視線の先には、“あの青年”の姿があった。

——あの時、地図を欲しがっていた人だ。

私も思わず身を屈め、遠くから様子をうかがった。

青年の隣には、優しそうな女性が並ぶ。

困ったように、それでも笑いながら話している。

二人の手元には、地図はない。

道に迷っているようだが、青年は必死に周囲を見渡し、彼女の歩幅に合わせて歩いている。

彼女がつまずくと、青年がそっと手を差し出し、そのまま繋いだ。

その姿を見つめながら、エラは誇らしげに言った。

「ほら、地図がないから手が繋げた」

私は少し呆れながら、エラを見つめた。

——夜道で必要なのは、地図じゃない。
——迷った先で、誰と歩くかだ。

その風景を、黙って見送ったあと。
ふと、エラの方を見る。

いつものように笑っている。なのに…
ほんの一瞬だけ、目が合わなかった気がした。

グゥー〜ーー

お腹が鳴った。

「エーラー!!今日はあなたの奢りだからね!」

そう言って、屋台の灯りに向かって歩き出す。

エラはいつもと変わらない。

——でも。

その手。
さっきまで何も持っていなかったはずなのに、

ほんの一瞬だけ、指先が黒く汚れているように見えた。

花火の影かもしれない。

なぜか、目を逸らした。

——本当に、いつも通り?


🔙第六話   第八話🔜


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note創作大賞2026 ファンタジー小説部門 投稿作

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