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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第五十九話 紅き塔への招待


紅き塔は、夜になると街を見下ろす。

まるで、ルーベントにいる者すべての罪を数えているように。

その塔から、私宛てに招待が届いた。


エラとヨル 第五十九話
【紅き塔への招待】


「明日……中央殻都へ来てください……」

フォーチュンから聞けたのは、それだけだった。

十二使徒の影、第一席。
ジャッジメント。

サンの剣の師匠であり、大陸最強の暗殺剣の使い手。

そんな人と、私に接点があるはずがない。
なのに、その人はルーベントに着いたばかりの私のことを知っていた。

ーーなんで?

疑問は浮かぶ。
けれど、フォーチュンは何も語らない。

知っていて言わないのではなく、聞かされていないようだった。

「ヨルだけを呼んでるの?」

サンが尋ねる。

フォーチュンは首を小さく振る。

「じゃ、私も行っていいんだよね?」

エラは笑っているが、目は真剣だ。

フォーチュンは少し考える素振りを見せた。
それから、オトにごにょごにょと耳打ちする。

オトがこちらを向いた。

「ヨルさんを呼んで来いとしか言われていないので、誰がついて来てもいいんじゃないか、だそうです」

「なら、私も行きます」

サンが言う。

私はみんなと目を合わせて、頷いた。

「わかった。私たちは四人で行くと伝えてもらえる?」

フォーチュンはこくこくと頷いた。

「どこに行けばいいの?」

私が聞くと、フォーチュンは小さなメモを取り出した。

そこには、短くこう書かれていた。

『中央殻都、紅き塔』

サンが横目でメモを見ると、一段声を落とした。

「紅き塔……赤い瞳の本部がある、ルーベントで一番高い塔です」

あの目印になる高い塔か。

この街に来てから、遠目で何度も見ていた塔だ。
近づいたことはないが……

フォーチュンは黙って立ち上がると、その場を後にしようとした。

だが、足が止まった。

「どうしたの?」

私が目線の先を見ると、そこにはクッキー饅頭の箱が並んでいた。

私はため息を吐いて、一箱を彼女に渡す。

フォーチュンは目を見開いて喜んだ。

「ありがとぅ……ござぃます……」

小さく頭を下げると、クッキー饅頭の箱を大事そうに抱え、食堂を後にした。

その後ろ姿を見送ると、私は三人の顔を順番に見て口を開いた。

「じゃ、まずは私たちの話からするね」

そう言って私は、今日あったことを話した。

ディアと吊るし人の戦い。
チャリオットとローズの乱入。

そして、燃えたスラムのことも。

話し終えると、沈黙が流れた。

「ディア、来てたんだ」

エラが短く言った。

ディアは、エラにとって教団にいる間に関わった相手だ。
複雑な表情を浮かべている。

まして、エラの育った場所を焼いた相手でもある。

「チャリオットは、何をしに来たんですか?」

オトが尋ねる。

サンは仮面に手をやり、少しだけ首を振った。

「おそらく、止めるために来たのだと思います。女帝の命令だと言っていたので、ニコの指示でしょう」

そこで、サンの声が弱くなる。

「人選は最悪でしたが……」

「会ったら、一発ぶん殴る」

エラは拳を固めた。

その声は軽く聞こえたのに、目だけは笑っていなかった。

「ごめん。その場にいたのに、何も出来なかった」

私はエラに頭を下げた。
サンも一緒に頭を下げる。

「ヨルさんたちのせいではありません」

オトが柔らかく言う。

「それに、そんなことを言い出したら、竜祀教に狙われている私たち全員が、責任を背負うことになります」

エラを見ると、腕を組んで大きく頷いていた。

「でも、それはそれ。ディアも吊るし人も、戦車とかいう奴も全員ぶん殴る。話はそれから」

エラの目が鋭くなる。

こんなにわかりやすく怒っているエラを見るのは、初めてかもしれない。

私がエラを見ると、エラはニィっと歯を見せた。

ーーよかった。怒っているけど、冷静だ。

私は胸を撫で下ろした。

「ところで、紅き塔ですけど……」

オトが聞きかけたのを、サンが何かを察して答える。

「紅き塔は、赤い瞳の総裁がいる場所です。普段は近寄ることも許されない、ルーベントの暗部です」

そう言うと、サンは視線を下げた。

「中は迷路のような作りになっていて、案内なしでは総裁の部屋には辿り着けないようになっています」

当然だと思う。

裏の組織の頂点にいるということは、それだけ命を狙われるということでもある。
おそらく警備も厳重だろう。

「武器の持ち込みは無理ってこと?」

私の声に、サンが首を振る。

「普通なら、無理です。でも、女帝の許可があれば許されるかもしれません」

私は胸にしまっておいた通行書を取り出す。

第九条により、どこに行くのも許可されている。
もちろん、武器の携行も含めて。

ただ、それが赤い瞳の本部でどこまで通じるかは、わからない。

「役に立つかわからないけど、丸腰で行ける場所じゃないよね」

私は腰のシルベに手をやった。

「行くなら、念のためにディケにも知らせておきましょう」

私が言うと、みんな頷いた。

話が落ち着いたところで、私は疑問に思っていたことを口にした。

「ところで、オト。それは何?」

気づいた時には、私の声が少し大きくなっていた。

オトはこちらを見もしない。

「なんのことですか?」

そそくさと紙包を鞄にしまおうとする。
私が取り上げようとすると、オトが強く引っ張った。

ビリッと音をたてて袋が裂ける。

中からは大量のクッキーが飛び散った。

「違うんです。これは……」

珍しくオトが慌てている。

「その、フォーチュンさんが欲しがったので、帰って来る道すがら、つい……」

机に飛び散ったクッキーを集めながら、オトが言い訳をする。

「オト、屋台ごと買おうとしてたじゃん」

エラは両手を頭の後ろで組みながら笑っている。

私は額に手をやった。

「だって、一個買おうとしたら二個買った方が安いって。でも、二個買うなら五個の方が安くて……」

「支払いは?」

オトの手が止まった。

目が泳ぐ。

エラがニヤリとして言った。

「フォーチュン」

ーーこの人たちは、誰に奢らせてるの?

「明日、フォーチュンに返して来なさい」

私は袋から銀貨を取り出すと、山積みになったクッキーを一枚拾い上げて、一口かじる。

ブッッ!

口から吹き出した。

「これ、何味よ?」

「ルーベント特製激辛クッキーだそうです」

ーーなぜ、そこを選んだ。

エラとオト。
この二人をペアにしたのは間違いだったようだ。

「意外といけますね」

サンがクッキーを食べながら呟く。

ーーこの人たちだけでは、行かせられない。

私はそう胸に誓い、窓から見える高い塔に目をやった。

今日はたくさんのことがあった。
でも、こうやって笑い合える仲間がいる。

そう思うと、少し肩の力が抜けた。

それでも、月夜に浮かぶ紅き塔だけは、夜の中で静かにこちらを見下ろしていた。



🔙第五十八話   第六十話🔜



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