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イブ物語|判断寓話|エラとヨル|第五十八話 運命は影に隠れる


赤い瞳。十二使徒の影。

第十一席。【運命】

フォーチュンと呼ばれる存在に、私は会った。
……会った、はずだった。


エラとヨル 第五十八話
【運命は影に隠れる】


その女性と目が合った。

軽く会釈すると、フォーチュンはオトの影に隠れる。

ーーえっ?なに?

オトの影から半分だけ顔を出す。

こちらをチラリと見るが、また顔を隠す。

「ヨル。また変なの拾った」

エラが真顔で言う。

「エラさん。猫じゃないんですから、そんな言い方はいけません」

オトがニコニコしながらエラを叱る。

オトの影から、半分だけ顔を覗かせたフォーチュンが、オトにごにょごにょと耳打ちをした。

「ヨルさんたちに会えて、嬉しいそうです」

「いえ、こちらこそ、はじめまして」

そうは言ったものの、私は困惑した。

ーー十二使徒の影だよね?
ーー何やってんの?

私の隣で、サンがため息を吐く。

「変わってませんね」

サンがフォーチュンに聞こえないように、小声で言う。

その姿を見て、またフォーチュンはオトに耳打ちをした。

「サンの仮面、かっこいいと言っています」

そう言われたサンは、少しだけ仮面の位置を直したが、口元は僅かに上がっていた。

「やっぱり変だ」

エラが呆れたように呟いた。

今度は、サンが私に耳打ちをする。

「フォーチュンは極度の人見知りなんです」

うん。わかった。
わかるけど、わかるはずない。

今日一日で、色々なことが起こり過ぎている。

私たちは一度部屋に戻り、それから食堂で今日あったことを話し合うことにした。

先に食堂にいたフォーチュンは、オトにべったりくっついている。

五人で席に着くと、オトが話し出した。

「私たちが喉元門周辺を探索していた時に、彼女に会いました」

オトがフォーチュンに視線をやる。

「迷子っぽかったから、声をかけたんだ」

そう言いながら、エラは運ばれてきた料理に、ひたすら手を伸ばし続けている。

「最初、声をかけたら逃げられちゃいまして……」

「でも、物陰からこちらを見ていたので、これを見せたら近寄って来ました」

そう言うと、オトが袋からお菓子を取り出した。

亀の形をした可愛らしい食べ物。

一緒に入っていたチラシには、ルーベントクッキー饅頭と書かれていた。

「それ、餌付けっ……」

私は言いかけたが、笑顔のオトと目が合い、口を閉じた。

「それで、話を聞いてみたら、どうもヨルさんを探していたそうです」

一同の視線が、私に集まる。

「知らない。知らない。十二使徒の影に知り合いなんていないよ」

私は慌てて手を振って答えた。

「えっ、これ十二使徒の影なの?」

今度はエラが驚いていた。

「言ってませんでしたっけ」

オトがとぼけたように呟く。

この二人を組ませたことを、私は軽く後悔した。

「なので、ここまで連れて来ました」

フォーチュンはクッキー饅頭を両手で持ち、小動物のように嬉しそうにかじっている。

「なんで、そんなにオトに懐いているの?」

「なんでしょう。近づくために歌った、クッキーの歌が気に入ったようです」

もう、絵面が変すぎる。

迷子になった十二使徒の影を、歌とクッキーで懐かせて連れて来る。

赤い瞳という組織が、ますますわからなくなった。

ただ、最初から気になっていたことがあった。

「その……彼女の耳って」

私はフォーチュンの金髪の隙間から覗く、細く尖った耳に目をやった。

耳が一瞬、ピクンと動く。

「ええ、彼女はハーフエルフだそうです」

ーーエルフ、本当にいるんだ。

話には聞いたことがあった。

森の奥で暮らす、妖精のような存在。

でも、見るのは初めてだった。

「純粋なエルフはあまり見かけませんが、ハーフエルフはそこそこいるそうです」

サンは、そう言ってからエラとオトに目配せをする。

「私も見るのは初めてですが」

なるほど、サンの秘密は言わない体でいくようだ。

「私、見たことあるよ」

エラは手についた串焼きのタレをペロリと舐めて言う。

「私は一度だけ話したことがあります」

オトが何かを思い出したかのように言う。

「エルフは森で暮らしていて、全員緑色のミニアが見えるそうです」

「あと、すごい長寿だそうですよ」

私はフォーチュンに視線を向けた。

それに気づいたフォーチュンが、下を向きながら呟く。

「私まだ……百三十歳です……」

蚊の鳴くような声だったが、初めて声を聞いた。

ーー喋れるんだ。

その前に百三十歳!?

この中で誰よりも長く生きているの?

これで……。

どうも最近、サンと知り合ってから、口が悪くなったように感じる。

私は口に出ないように気をつけて、咳払いをした。

「それで、私に何の用なの?」

私の質問に答える前に、フォーチュンは突然立ち上がった。

鞘に入ったままの剣を、すっと前へ出す。

ゴッツン、と鈍い音がした。

「痛ってぇえ!!」

剣の先にいた男が、頭を押さえてうずくまる。

どうやら、こちらの机に倒れ込むところだったらしい。

私が視線を向けると、少し離れた席で、若い男たちが喧嘩を始めていた。

腰のシルベが僅かに熱くなる。

周りの席からは煽るような声が上がり、二、三人の男たちがさらに声を荒げている。

黙って、そこにフォーチュンが近づく。

すると、一人の男が相手に向かって皿を投げた。

外れた先には、フォーチュンがいる。

「危ない!」

私は思わず声を上げた。

しかし、フォーチュンはまるで飛んでくる位置がわかっているかのように、それを手で受け止める。

そして、そのまま男に投げ返した。

パリン、という音と共に皿が顔面に当たる。

皿を投げた男は顔から血を流し、その場でうずくまった。

それを見た別の男が、フォーチュンに殴りかかる。

拳を振り上げようとした時には、もう遅かった。

男の顎に、鞘がめり込んでいた。

食堂の喧騒が、急に静まり返った。

先ほどまで怯えていた金色の瞳が、冷たく辺りを見渡す。

倒れた二人は、仲間らしき者たちに連れ出されていった。

それを見届けると、フォーチュンは席に戻り、オトの耳元でごにょごにょと言った。

「ごめんなさい。危ない未来が見えたので、先に動いてしまいました。だそうです」

オトはニコニコと笑いながら、サンに視線を向けた。

その言葉を聞いて、サンは抜きかけた剣を鞘にしまう。

ーー危ない未来って、男たちの方ってこと?

「へぇー、やるじゃん」

エラが食べ終わった皿を見つめながら、こぼした。

私は背筋が冷たくなるのを感じた。

よかった。

余計なことを言わなくて。

十二使徒の影の実力は、今日嫌というほど見たはずなのに、見た目とのギャップで油断していた。

僅かに反省する。

「それで、私への要件とはどういったことでしょう?」

少し、言葉が硬くなっていた。

エラが吹き出す。

「ヨル。大丈夫だよ。こいつは変だけど、サンほどは強くないから」

比較対象がおかしい。

そもそも、サンより強い人ってどんな人?

席に座り直したフォーチュンが小さな声で話す。

「師匠が……ジャッジメントが、ヨルさんに会いたいそうです」

サンの肩が揺れる。
オトも表情を変えた。

私は黙って頷き、答える。

「話を、聞かせて」


🔙第五十七話   第五十九話🔜



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