ギャルの始め方|ファンタジー作家、今日からギャルを目指します
※本作はフィクションです。
実在する作者とは一切関係ありません。
作者アイ、ギャルを目指す

ある日、作者アイは思いました。
――ギャルになろう。
理由は特にありません。
新しい自分に出会いたかったのかもしれないし、少し雰囲気を変えたかっただけかもしれません。
ただ、何事も形から入る作者アイです。
まずは、髪を染めることにしました。
美容室で鏡の前に座り、黒髪の内側へミルクベージュを入れてもらいます。
「ギャルを目指しているんですけど……
まだ後戻りできるぐらいで、お願いします」
派手すぎず、地味すぎず。
髪を動かしたときだけ、明るい色がちらりと見える。
「……これ、ギャルっぽくない?」
作者アイは、少しだけ自信を持ちました。
ギャルへの第一歩は、順調です。

次は断捨離をしてみる
次に作者アイが始めたのは、部屋の断捨離でした。
新しい自分になるなら、古い物を捨てなければならない。
棚に並んだ漫画やフィギュアを眺めながら、作者アイは大きな袋を用意します。
ギャルっぽくない物。
もう使わない物。
過去の自分を感じる物。
ひとつずつ手に取り、必要かどうかを判断していきます。
しかし、作業はなかなか進みません。
「これは思い出がある」
「これは資料になる」
「これは推しだから無理」
「このカッパは……家族」
捨てるはずだったフィギュアや漫画は、次々と保管用の箱へ移されていきました。
結局、処分されたのは空き箱と、何年も使っていなかった小物だけ。
それでも棚は少しすっきりしました。
作者アイは、満足そうに部屋を眺めます。
「断捨離、完璧」
実際には、ほとんど場所を移しただけでした。

ギャルの喋り方を考える
見た目だけでは、まだ足りません。
次は喋り方です。
作者アイは、ギャルらしい言葉を考えました。
「それな」
「普通にヤバい」
「めっちゃウケる」
「知らんけど」
試しに声に出してみます。
「え、待って。普通にエンゲージじゃない?」
何かがおかしい。
「テンション激落ち、RTBじゃん」
ギャル語ではあるものの、内容がずっと特殊部隊です。
「状況ガスなんだけど、マジで盛れてる」
作者アイは少し考えました。
ギャルを目指していたはずなのに、完成したのは武装した陽気な冒険者でした。
喋り方の研究は、いったん保留となりました。

本屋でギャルを研究する
作者アイは本屋へ向かいました。
目的はもちろん、ギャルの研究です。
ファッション誌を読み、メイクや服装、流行の言葉を学ぶ。
今回は遊びではありません。
これは取材です。
作者アイは、真剣な表情で店内へ入りました。
ところが、気づけば漫画売り場にいました。
新刊。
異世界ファンタジー。
戦記。
ミステリー。
表紙が気になった作品。
以前から買おうと思っていたシリーズ。
作者アイの手には、次々と漫画が積み重なっていきます。
「これは物語の構成を学ぶため」
「これはキャラクター研究」
「これは世界観の資料」
「これは……普通に読みたい」
店を出る頃には、大きな紙袋を両手に抱えていました。
なお、ギャル雑誌は一冊も買っていません。

ガチャガチャとの戦い
本屋からの帰り道。
作者アイの前に、ガチャガチャコーナーが現れました。
今日はもう十分に買い物をしています。
ここは通り過ぎるべきです。
「一回だけなら」
作者アイは立ち止まりました。
カプセルから出てきたのは、小さなカッパのフィギュアです。
「……運命じゃん」
もう一回。
今度は色違い。
「え、待って。これ、並べたら絶対かわいい」
その後のことは、あまり覚えていません。
気づけば作者アイの手には、複数のカプセルがありました。
ギャルになるための外出だったはずが、漫画とカッパを増やしただけでした。

断捨離した棚を埋める
家に帰ると、作者アイは断捨離によって綺麗になった棚を眺めました。
余白があります。
整っています。
とても美しい。
作者アイは、今日買った漫画を一冊ずつ並べました。
高さを揃え、巻数を確認し、シリーズごとに整理します。
その前には、ガチャガチャで手に入れたカッパたちを配置しました。
右へ少し。
左へ少し。
角度を調整。
「……完璧」
作者アイは少し離れ、棚全体を眺めました。
さっきまであった余白は、もうありません。
断捨離とは、物を減らす行為ではない。
新しい物を、気持ちよく並べるための作戦行動です。
「めっちゃいい感じになった」
ここで初めて、ギャル語が自然に出ました。


自撮りをしてみる
最後は自撮りです。
髪も染めました。
部屋も綺麗になりました。
あとは、ギャルらしい写真を撮るだけです。
作者アイはスマートフォンを構えました。
顔の角度を変えます。
前髪を整えます。
少し顎を引きます。
光の当たり方も確認します。
「よし」
撮影した写真を見て、作者アイは固まりました。
真正面。
白い壁。
真面目な表情。
姿勢だけはやたらと良い。
どう見ても、証明写真です。
もう一枚撮ります。
今度は少し笑ってみました。
それでも証明写真でした。
「……盛ろうとしたのに、社会性が出た」
ギャルの自撮りにはなりません。
就職活動なら、かなり好印象です。

ギャルになるのを諦める
作者アイは、スマートフォンを机に置きました。
髪を染め、部屋を片づけ、喋り方を研究し、自撮りもしました。
途中から漫画とカッパが増えましたが、それもたぶん必要な過程です。
それでも、ギャルにはなれませんでした。
作者アイはしばらく考えたあと、ノートを開きました。
そして、ペンを握ります。
髪を染めた主人公。
部屋を片づけたのに、漫画とフィギュアで棚を埋める主人公。
ギャルになろうとしているのに、やることが妙に真面目な主人公。
書き始めると、言葉は次々と出てきました。
ギャルになることは難しかった。
けれど、ギャルを目指した人の物語なら書ける。
作者アイは、ノートの一番上にタイトルを書きます。
『ギャルの始め方』
そして、その下に最初の一文を書きました。
ある日、作者アイは思いました。
――ギャルになろう。
作者アイは、ギャルになることを諦めました。
その代わりに、ギャルの物語を始めました。
「……これ、普通にアリじゃね?」
最後だけ、少しギャルでした。

