なぜ、企業自身に刑事事件の背景知識が必要なのか――見通しのきく企業防衛①|#014
最近の記事は少し教育寄りの内容が続いていたので、今回は久しぶりに本業である企業法務について書いてみようと思います。
今回から、「見通しのきく企業防衛」というシリーズを始めます。
僕は、企業防衛で本当に必要なのは、「知識」よりも「見通し」だと思っています。
もちろん、法律や制度を知ることは大切です。
しかし、企業が刑事事件やその兆候に直面したとき、本当に求められるのは、条文を暗記していることではありません。
今何が起きているのか
次に何が起こり得るのか
そして、企業として今何を考えるべきなのか。
その「見通し」を持つことです。
タイトルの「見通しのきく企業防衛」は、2025年春に一度だけ開催したセミナーのタイトルです(名前の生みの親は一応僕です(笑))。
当時のセミナーでは、企業がレピュテーションリスクを避けるために知っておくべき刑事事件対応として、取調べへの対応から、強制捜査、さらには合意制度(いわゆる日本版司法取引)まで、50枚を超えるスライドを使って、できるだけ体系的にお話ししました。
内容自体には一定の自信がありました。
しかし、終わってみると、「伝えたいこと」は伝えられたものの、「聴いている方が本当に知りたかったこと」を十分届けられたとは言えないという思いが残りました。
そこで、2026年の今、改めて考えてみました。
もし今、同じテーマを話すとしたら、何から伝えるだろう。
その答えが、このシリーズです。
特に、日本では、取調べに弁護士が立ち会う制度が認められていません。
そのため、会社関係者が取調べに呼ばれたとしても、弁護士がその場で捜査機関の質問内容や関心事項を直接確認することはできません。
会社側が得られる情報は、取調べなどで捜査機関と接触した企業関係者本人の記憶や報告に大きく依存することになります。
しかし、その報告の中には、
「捜査機関はどの事実を重視しているのか」
「誰を被疑者として見ているのか」
「どの程度証拠を集めているのか」
「今後、逮捕や捜索差押えに進む可能性はあるのか」
といった、企業防衛の方向性を左右する重要なヒントが数多く含まれています。
もちろん、事件が発生してから弁護士に相談することは重要です。
しかし、その前提として企業側にも一定の背景知識があれば、断片的な情報から仮説を立て、今後の捜査の展開を予測し、企業として取るべき対応を考えることができます。
結果として、より早い段階で適切な対応につなげることができるでしょう。
僕が考える「見通しのきく企業防衛」とは、まさにそのためのものです。
このシリーズでは、刑法や刑事訴訟法の細かな条文解説をするつもりはありません(必要な限りでは行いますが)。
企業が刑事事件に直面したり、その兆候をつかんだりしたとき、「今どの場面にいるのか」「次に何が起こり得るのか」「そのために何を準備すべきか」を考えるための「地図」を、一つずつ整理していきたいと思います。
次回からは、その地図の土台となる「刑事事件の流れ」を確認したり、「刑事事件のプレーヤー」を整理したりしながら、企業にとって本当に警戒すべきタイミングはどこなのかを考えてみます。
