男の出発(たびだち)
70代後半男性(以下「A様」とさせて頂きます)が約45年お住まいになった愛着のある賃貸アパートから転居されました。
そのご支援をさせて頂きましたので、概要を書かせて頂きます。
✅上京
A様は東北地方ご出身の方です。
昭和33年(1958年)頃に学校を卒業され、集団就職にて上京されました。
東京都にある機械工場に技術職として採用され、しばらくはそこで働かれ、昭和51年頃に現在のアパートに引っ越して来られたとのことです。
それから今日までの期間が45年。
苦楽を共にした思い入れのあるお住まいです。
✅建物取り壊し
私はご支援のためアパートを訪問しました。
佇まいからして年季の入ったアパートだということは一目瞭然でした。
取り壊しの予定があるとのこと。したがって、A様は退去をする必要がありました。
A様は職人気質で寡黙な方です。お言葉は少なかったですが、
『ここで最後まで暮らしたいよ。でも取り壊しなら仕方ないな。』
と、寂しそうにおっしゃいました。
私は、引越し先をお探しすることからお手伝いさせて頂きました。
A様はこのアパートで独居生活を送られていました。数年前に仕事はリタイアされており、このアパートで介護保険サービス(訪問介護等)を利用されながら暮らされています。
このように訪問介護等のサービスを使うことにより、A様はまだまだ独居生活の継続は可能と思われました。
しかしA様は現状お一人での生活であり、身体的な現況等を含めて今後のことを色々と考えますと、独居生活は色々な点において困難が生じ得ることが想定されました。
そこで、次の生活の場として介護関係施設を検討されることとなったのです。
✅引越し先はどんな所?
介護関係施設は種類がたくさんあります。
一般的に「老人ホーム」と呼ばれる施設も、「特別養護老人ホーム」や「介護付き有料老人ホーム」など、複数の種類があります。
それぞれ特徴が異なりますので、ニーズに応じて慎重に選ぶ必要があります。
A様はお元気な人ですので、A様と同じように自立度の高い人が暮らされている施設であって、尚且つ、将来的にお体の機能が低下してしまった場合でも対応が可能な施設が望ましいと考えました。
A様には姪御様がいらっしゃるとのことでしたので、姪御様に連絡を取らせて頂きました。
今回のお引っ越しのお手伝いを含め、今後もサポートして頂けることとなりました。
ただし姪御様は遠方にお住まいであり尚且つお仕事もされているので、頻繁には駆けつけることが出来ないのが現状でした。
姪御様とお打ち合わせの上、次の要件を満たす施設に入居して頂くこととなりました。
🟡A様が生活を楽しめること
🟡介護が必要になっても対応可能なこと
🟡姪御様のお家からのアクセスが良いこと
🟡ご予算の範囲内であること
幸いなことに施設に空室があり、この施設への入居は現実的になってきました。
あとは、各種検査を受けて大きな問題がなければ入居が確定します!
✅苦手なもの…
しかしその検査がネックとなったのです…。
数日後、検査を受けて頂きたい旨をA様にお伝えしに行きましたところ、
『おれは今日までずっと元気だったんだから大丈夫だよ!そんな検査を受けなきゃいけないんなら俺は施設なんか入らないよ』
とのことでした…。
A様が検査や注射が大っ嫌いなことが判明したのです。
検査の必要性を色々な角度から訴えてみましたがダメでした。
あまりにもしつこくすると良くないと思いましたので、この日は引き返すことにしました。
✅ダメモトで
このことを姪御様に電話にて報告相談しました。
姪御様もチャレンジして下さるとのご意向を示してくれました。
遠方からわざわざこのためだけに来て下さるわけですから、私もサポートをしたいと思い、姪御様を車で送迎させて頂くこととしました。
送迎の車内では色々とお話も出来るので情報収集が出来るのはもちろんですが、話題によっては、お客様との心の距離を近づけることも出来るのかと思います!
姪御様がA様のお家に到着されました。
私は緊張感でいっぱいになりました。A様の反応が想像できたからです。そして、姪御様もA様から怒られてしまうのかと思うと、申し訳ない気もしてきました(><)
✅え?
姪御様がお話を切り出しました。
《姪御様》
これからお引越しする施設は検査が必要だからちゃんと検査を受けてね!!!
《A様》
…。そうだな。みんなが受けるなら致し方ない。
姪御様はとてもフレンドリーな口調でした。
こんなにもあっさりと同意を得ることができるとは予想だにしませんでした(笑)。
やはり、数日前に知り合ったばかりで関係性の構築が出来ていない私とは大違いでした。
日頃は離れた場所で暮らしていても、姪御様との関係性はバッチリなのだと思いました。
後々に姪御様に聞いてみましたところ、姪御様が幼い頃はA様がよく遊びに連れて行ってくれたりして、とても可愛がってくれていたとのことでした。
私の中ではこの検査が最大のネックと思っておりましたが、ご家族様の協力を得ることによりいとも簡単にクリアできました。
✅お引越しの日
長年住んだこのお家ともお別れ。必要な荷物だけ持って出発です。
A様は何も言わずに玄関を出ました。
色々なことを共にしてきたお家ですので、ここを出なくてはならないのは寂しいお気持ちもあったことかと思いますが、私たちにそのことを悟られたくなかったのかもしれません。
部屋を出てカギをかけ、車に乗り込むその時です。
『ちょっと隣へ。』とA様が仰いました。
A様がアパートの隣の工場を指差すので、私は付き添ってA様と一緒に入っていきました。
年季の入った工具や機械があり、歴史を感じさせる工場でした。
おそらく、数十年前から営まれている工場だと推測できます。
工場の社長さんが出てきました。
《A様》
引越し先が決まったよ。これから出発する。色々あったね。長いことお世話になったね。
《社長様》
達者でやれよ。
たったこれだけの数十秒の会話でした。
しかし、このごく短時間の会話の背景には色々な思いがあるのだろうと思いました。
私の勝手な憶測になりますが、おそらくお二人は45年来のお知り合いだと思うのです。
高度経済成長を担ってきて下さった人たち。若かりし頃にはきっと夜遅くまで働き、そしてこの場所でこのようにお声を掛けあったことと思います。
『今日もお疲れ様な!』
『お前もな!』
長年暮らした部屋、見慣れた景色、地域との絆。
私ごときでは言い尽くせないほどの大切なものたちとお別れし、新たな環境での生活が始まるのですね。
✅結びに
とうてい勝ち目はないかもしれませんが、新たな環境に馴染んで下さって「ココに来て良かったよ!」と思って頂ければ何よりです。
大先輩である人の人生の一部を垣間見ることのできる仕事。しかも、生活の奥深い部分まで関係させて頂く仕事。
介護という仕事は非常に責任が重いですが、やりがいのある仕事なのだと改めて感じました。
最後までお読み頂きありがとうございました!
また次回も宜しくお願いします。
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