二院制と参議院論 PART.3 ~参議院の選挙制度~
三部作もいよいよ完結です。今回は、私が参議院の選挙制度として、いかなる制度が望ましいと考えているのか、詳細に述べていきます。
まだPART1、PART2をお読みでない方は、ぜひこちらからお読みください。
PART.1では、世界各国の上院のあり方について網羅的に述べており、PART.2では、日本にとって望ましい参議院のあり方を考察しました。
要点をまとめると、日本の参議院は、
役割(Roles)
民主主義の番人として、行政や衆議院に対する抑制と均衡を担う
機能(Functions)
憲法改正や、憲法が委任している重要法律、長期的な政策の慎重な審議を行う
権限(Powers)
首班指名、内閣不信任決議、予算と財政法案の議決には、関与しない
憲法付属法に対する拒否権と、一般法に対する遅延権を持つ
裁判官の弾劾裁判、違憲審査の要求権、中立的機関の人事同意権をもつ
このようなあり方を目指すべきであり、そのために、議員は全国民を代表して直接選挙されるべきという結論に至りました。
チェコの二院制の観察
チェコの概況
前作の記事などから、チェコは、私の考える二院制像と非常に類似した二院制を採っていることが分かります。そこで、まず、チェコの二院制[1]について検討し、参考にすべき点を探っていくことから始めて見ましょう。
チェコは、かつてチェコスロバキアとして旧ソ連構成国の一つであったのですが、ソ連崩壊と共にスロバキアと分離して、1993年の元日にチェコ共和国として独立しました。州を置かない単一国家で、議院内閣制を採用しています。下院(代議院)は比例代表制によって、上院(元老院)は小選挙区2回投票制によって選ばれます。憲法改正、選挙法等を除き、上院は否決しても、下院の過半数をもって再可決されるため、下院の優越が強くなっています。また、下院の解散権が、内閣不信任決議の可決や重要法案の否決といった事態に制限されていることも特徴的です。
上院はチェック・アンド・バランスの役割に徹していますが、それは下院と異なる選挙制度を採り、異なる日程で選挙を行っていること、そして、被選挙権が40歳以上にのみ認められ、経験豊富な議員が選ばれやすくなっていることからも見て取れます。また、明確に地域代表であると明言していませんが、小選挙区を採っている以上、地域における個人の評判や人格が重視される傾向にあるようです。一方、国民の理解は限定的で、投票率が37%と異常に低く、決選投票においては20%前後にまで下がっています。そのため、保守層や政治意識の高い人々の影響力が強くなっており、体制側の右派政党に有利な結果をもたらしているようです。
日本への示唆
このようなチェコの現況から、日本政治にどのような示唆を与えるか、考えていきます。
まず、チェコの上院選においては、投票率の低さが際立ちます。この要因として、小選挙区2回投票制という複雑な制度(投票を2回行う)であること、そして、両院で異なる時期に選挙を行っていることが原因だと考えます。実際、日本においても、衆参同日選挙となった1980年、1986年には、その前後の回の選挙と比べて、投票率が高くなっています[2]。
また、日本においては、伝統的な右派政党たる自民党が選挙に強いという、特殊事情も考慮する必要があります。そうなれば、低い投票率等によって、右派政党に偏って有利な状況を生み出しているチェコの制度は、そのまま採用することは控えるべきだと言うことが分かります。
ここからは、チェコ以外の制度にも着目し、日本において参議院がどのような制度を採用するべきか、考察していきます。
あるべき任期と選挙時期
各国上院の任期
まずは、参議院議員の任期について検討します。
先進諸国において、直接選挙で選ばれる上院議員の任期をまとめると、以下のようになります[2]。()の中は、その国の下院議員の任期を示しています。
6年:チェコ(4)、日本(4*)、オーストラリア(3)、アメリカ(2)
5年:イタリア(5)
4年:スイス(4)、スペイン(4)
こうしてみると、下院議員と上院議員で同じ任期にしている国が3か国、上院議員の任期を下院より長くしている国が4か国となりました。上院議員の任期を下院より短くしている国はありませんでした。3年以下や7年以上の例もありませんでした(ちなみに、かつてのフランス上院は、任期が9年となっていました)。
前回の記事で、民主主義の番人としての役割をもつ参議院は、長期的視野を持った議員から構成されるべきと述べました。この観点に照らせば、上の例の中で最も長い任期である6年任期を維持することが妥当であると言えます。また、同じく任期6年としているオーストラリアでは、3年ごとに半数を改選することになっており、アメリカ、チェコでは、2年ごとに3分の1ずつ改選されることになっています。この例からも、参院選の最中でも任期の切れない議員が残り緊急時における耐性も強くなる、一部改選制が望ましいと考えられます。
また、太字で表示した日本とチェコを除き、上下両院の選挙は同じ日に行われています。また、前章で述べたとおり、下院の解散が特殊な場合に制限されているチェコでは、下院議員の任期が事実上も4年になっているのに対し、衆議院の解散が定着している日本では、衆議院の任期が事実上3年程度になっています(55年体制成立以後、69年間で23回の衆院選が行われています)。
衆参同日選挙の是非
以上の議論から、私は、平時には衆参同日選挙を行うべきだと考えています。その理由として、
投票率向上のため
優越的権限を持つ衆院に、直近の民意を反映させるため
政権の安定に寄与するため
衆院の選挙時期を読みやすくして、公平な選挙を行うため
を挙げます。一つ一つ述べていきます。
投票率が衆参同日選挙によって引き上げられると考えられる点は、前章で述べたとおりです。日本においては衆院選の方が投票率が高くなっており[3]、参院選も同時に行うことで投票率が高くなることは、容易に想像できます。
しかし、最も重要で本質的な理由は、衆議院の優越に対する正当性を確保するためです。前回の記事において、政権を決める衆議院と違って、民主主義の番人たる参議院は、政権の選択や財政法案の議決に関与するべきでないと述べました。これは、衆議院の優越をきちんと遵守すべきだということになりますが、この衆議院の優越を正当化するためには、衆議院の方がより直近の民意を反映していることが求められます。仮に、衆院選の後に単独で参院選が行なわれ、与党が敗北した場合、直近の民意が政府与党に対する不信任を明確にしたにもかかわらず、直後に解散総選挙が行われない限り、同じ政党が政権に居座ることになります。事実、与党が参院選で敗北した事例を見てみると、首相だけ変わって与党は変わらない場合がほとんどで、民意を得ていない政党が政権に居続けることを可能にしてきました。
さらに、衆院選と参院選を異なるタイミングで行うことで、ほぼ毎年国政選挙が行われることになります。すなわち、ほぼ年に一度のペースで審判を受けることになり、短期的な民意の揺らぎによって政権が一度でも敗北した場合、即座に退陣を求められるようになります。こうなると、長期政権が生まれず、外交面で悪影響が出るほか、短期で効果の出る政策や有権者の受けの良い政策ばかり行われるようになり、首相が大局的観点から国のグランドデザインを描くことを抑制してしまいます。
また、首相が解散総選挙のタイミングを自由に決められる場合、本来政権を選択できるはずの衆院選が、与党にとって不当に有利な選挙となる蓋然性が高まります。首相による自由な解散権が、自民党の一党優位的な現状を維持する方向に影響しているのは事実でしょう。衆参同日選挙が通例となれば、決まった時期に選挙があることが暗黙の了解となり、野党もその選挙に向けてきちんと準備できるようになるので、与野党がより公平に戦えるようになります。
衆院の任期との関連性
以上の理由から、私は衆参同日選挙を通例とすべきだと考えます。一方で、内閣不信任決議が可決されたり、重要法案で与党案が否決されたり、連立崩壊があったりした場合には、国民による仲裁を可能にするべく、解散総選挙を行うべきでもあります。そのため、首相が解散権を行使できない状態も避けるべきです。したがって、衆参同日選挙を法律や憲法等で規定することは控えるべきであり、慣例によって実現するべきであると考えます。
ちなみに、憲法改正も視野に入れる場合には、衆参同日選挙に適合的なものにすると言う観点からの改正論議が求められます。衆議院の任期を参議院の改選頻度と同等にすることで、任期満了に伴って、なかば自動的に衆参同日選挙が執行されるという状況が望ましいと考えます。具体的には、衆議院の任期を3年にすることで対応すべきです。先進諸国の下院の任期を見ると[2]、
2年:アメリカ
3年:オーストラリア、ニュージーランド
4年:ドイツ、スウェーデン、デンマーク、オランダ、スイス、スペイン、チェコ、カナダ、日本、韓国
5年:イギリス、フランス、ベルギー、イタリア、オーストリア、アイルランド
となっており、大半が4年、または5年に集中していますが、3年の例も存在します。55年体制成立以後、平均して3年に一度のペースで衆院選が行われてきたことを考慮しても、衆議院の任期を3年とすることは妥当であると考えられます。
参議院に適した選挙制度
選挙制度を巡る観点
私は参議院のあり方について、以下の記事でも考察しています。
前作(二院制と参議院論 PART.2)における主張の根本となる考え方を述べているのですが、ここで、参議院の選挙制度の方向性として、「明確な勝者を生じない、比例的な制度」にするべきと主張しました。
現行の制度は小選挙区を32区も抱えており、これが時の多数派に対して過剰な議席を付与します。こうなると、衆院では与党が、参院では野党第一党が過半数を握るという大きくねじれた構成になる可能性があり、参議院が党派的な対立を煽り、均衡と抑制という本来の役割を果たせないことになってしまいます。
また、衆議院においては政権の安定性や政党の乱立を防ぐという観点も考慮すべきですが、政権選択に関与せず法律に関する権限も弱い参議院においては、多数派ボーナスを与える必要がなく、民意を鏡のように正確に反映するように、比例性を可能な限り高めていくべきだと考えます。また、前作において、憲法付属法には両院の過半数の議決を要するべきと主張しましたが、参院での議決を厳しい条件にすると言う意味でも、参議院では明確な勝者を生まないようにすべきです。そのため、参議院においては完全比例代表制をとるべきと考えます。
選挙制度の具体案
比例性を高める最も簡単な方法は、全国の得票率に基づいて比例的に議席を配分することです。その上で、民主主義の番人たる良識をもった人物を選べる選挙制度とするために、以下の2つの考え方から議員を選ぶ制度を検討します。
有権者こそが、良識を持っている人物を選ぶべきという考え方
政治に深く関わっている政党こそが、良識を持っている人物を選べるという考え方
そのために、現在の参議院の全国比例区を参考とした、特定枠付き非拘束名簿式比例代表制を提案します。具体的には、
有権者は、政党名または候補者名を1つ書いて投票する。
全国で得票率2%以上の政党に、ドント式で議席を配分する。
特定枠の候補者に名簿順で、その次に、特定枠でない候補者に候補者票の多い順で、当選者を決する
各政党には、候補者の三分の一以上を特定枠として、順位の付した名簿に立候補させることを義務づける
特定枠の候補者には、選挙活動に一定の制約を設ける
いわゆる阻止条項の2%は、現在の政党要件から決定しました。また、特定枠には、学者や元法曹など有識者が立候補することを想定して、現行の特定枠と同様、個人名を冠した(選挙ポスターや個人演説等)選挙活動を禁止とし、かつ特定枠の候補から優先的に当選することによって、参議院に専門家や実務者を多く呼び込み、民主主義の番人としての役割を果たせるようにします。また、有権者が個人名で投票できないと言う意味でも、特定枠の候補者が個人的な選挙活動を行うことは、制約することとしています。
この制約によって、選挙運動がある程度容易に行えるものになり、有識者が積極的に立候補できるようになると考えています。高度な見識を持つ人物が、参考人として招致されるのではなく、議決権を持つ議員として国会に参加することで、国会の委員会や党内の議論をより高度なものにしていくことを目的としています。
特定枠を設けると、有権者の民意が反映されないという批判もあるかもしれません。ただし、拘束名簿式の比例代表制は、過去の参院選(1983〜1998年)や現在のスペイン下院でも用いられている、一般的な制度です。また、衆院の優越によって参議院の権限が弱められているため、参院はあくまで専門的な見地から議論を補助する機能に徹し、民意を反映する衆院の意思を最終的に優先する点において、整合性を持つと考えています。
参考文献
[1] Venice Commission - Report on Bicameralism - Czechia
https://www.venice.coe.int/files/Bicameralism/CZE-E.htm
[2] 二院制諸国における選挙制度・任命制度 2015年3月27日 那須 俊貴・国立国会図書館調査及び立法考査局 議会政治課
[3] よく分かる投票率 総務省選挙部 2025年3月https://www.soumu.go.jp/main_content/000938531.pdf
