絆HDが会社更生法を申請。150億円の不正受給、その原資の半分は国税だ …大阪市の謝罪で、誰が始末をつけるのか?
絆ホールディングスが、会社更生法(経営が行き詰まった"株式会社"を、つぶさずに立て直すための法律です)の適用を申請しました。
報道のとおり、グループ5社の負債総額は約289億円。
社会福祉事業者の倒産としては、過去最大です。
このニュースを、「大阪のいち福祉会社の倒産」として読み流してほしくありません。
僕は、この問題を発覚のときから追ってきました。
そして、この"会社更生の申請"こそ、いちばん見過ごされている部分だと考えています。
ポイントは、ひとつ。
"投じられた税金が、戻ってこないかもしれない"
しかも、その税金の原資の半分は、大阪市の金ではなく、全国民が納めた国税です。
順を追って説明します。
まず、この給付費は「誰の税金」だったのか。
ここを、最初に正確に押さえてください。
絆HDが受け取っていた給付費は、一円残らず税金です。
そして、その税金は大阪市だけが出していたわけではありません。
障害福祉サービスの財源は、法律で負担割合が決まっています。
就労継続支援A型に支払われる給付費(基本報酬や加算)も、この割合です。
国が2分の1
都道府県が4分の1
市町村が4分の1
つまり、絆HDが全国で受け取ったとされる約150億円の"原資"は、こう分解できます。
・国費(=全国の納税者のお金) 約75億円
・都道府県費 約37.5億円
・市町村費 約37.5億円
大阪市が返還を求めている約79億円も、市の財布から出た金ではありません。
・国費 約39.5億円
・大阪府費 約19.75億円
・大阪市費 約19.75億円
"大阪市が身銭で出していたのは、約20億円分だけ"。
残りの約59億円分は、国と大阪府──つまり、北海道の人も、東京の人も、埼玉の人も納めた税金が原資です。
ここを理解すると、この事件の見え方が変わります。
これは、大阪市の窓口で起きた、大阪ローカルのトラブルではありません。
全国民の税を原資とする公金が、ひとつの事業者グループに巨額に流れ込んでいた。
だから、大阪市長が一人で頭を下げて幕を引けるような、小さな話ではないのです。
窓口は、いつから知っていたのか。
「気づかなかった」のではありません。
"気づいていたのに、止めるまでに時間がかかった"
ここが、この問題のもう一つの重い部分です。
時系列で並べます。
<2022年度> 大阪市が、傘下NPO法人リアンの事業所への加算金が前年度の"数十倍"に急増していることを認識。
市は厚生労働省に相談するも、答えは「違法と指摘するのは難しい」。
当時の告示(国が定める細かい支給ルールです)では、加算の条件が「半年間の勤務」しか定められていなかった。<2023年> 市が実地指導。勤務実態のないケースを確認し、利用者からの相談も増加。しかし請求は止まらず。
<2024年4月> 厚労省が「3年ルール」を導入。一度加算対象になった人は、その後3年間は再び対象にできない、という制限。
だが絆HD側は「改定前の実績には影響しない」と主張し請求を継続。<2024年度> 傘下3事業所への支給が計約50億円。大阪市内およそ300事業所への支給総額の"約4割"を、わずか3事業所が占有。
<2025年3月> 市が再度の指導。状況変わらず。
<2025年8月> 市が強制力を伴う監査に踏み切る。
<2026年3月> 指定取消と、約110億円の返還請求。
ここは、二つの時期に分けて考える必要があります。
"2024年3月まで"。
この時期、行政には支給を止める法的根拠が、ほぼありませんでした。
告示に「半年勤務」しか要件がなく、形式を満たした請求を、行政は拒めなかった。
止められなかったのは、現場の怠慢というより、"制度の穴"そのものです。
問題は、ここからです。
"2024年4月以降"。 3年ルールができ、止める根拠が生まれた。
それでも請求は続き、止まるまでにさらに時間がかかった。
ここは、制度の穴では説明できません。
そして、数字の異常さを直視してください。
報道によれば、この事業所では利用者1人あたり月200万〜300万円台の給付になるケースが多数あったとされています。
全国平均は、月20万円前後です。 "10倍から15倍"。
1人月20万円が普通の世界で、1人月200万円超が何百人分も並んでいた。
請求データは、市の窓口の目の前にあった。
これを「気づかなかった」では、説明がつきません。
法律は、最強クラスの取り立て権を持っている。それでも、取れない。
「不正に取られた税金なんだから、当然取り返せるだろう」。
そう思いますよね。
ところが、戻ってこない可能性が高い。
その理由を、順番に説明します。
障害福祉の不正受給の返還金は、ただの借金ではありません。
これは"強制徴収公債権"(税金の滞納と同じやり方で取り立てができる、強い債権のことです)にあたります。
具体的には、滞納処分(裁判を経ずに相手の財産を差し押さえる手続きです)ができる。
普通の取引相手が払ってくれないときよりも、ずっと強い取り立ての権限が、法律上は用意されているのです。
では、なぜ取れないのか。 理由はシンプルです。
"差し押さえる財産が、もう残っていないから"
どれだけ強い取り立て権を持っていても、相手の金庫が空っぽなら、一円も取れません。
ない袖は振れない。 これは精神論ではなく、回収の現実です。
本来の事業規模では、説明のつかない金が動いていた。
財産が残っていない理由を考えるうえで、見ておくべき数字があります。
絆HDグループの売上が一番大きかった年でも、公表ベースの年商は約24億円でした。
ところが、不正に受け取ったとされる給付金は、複数年の累計で全国約150億円。
2024年度だけでも、傘下3事業所で約50億円が支給されています。
本来の事業の規模感では、説明のつかない金額が、毎年動いていた。
このお金が、どこへ流れたのか。
ここが、回収できるかどうかの分かれ目です。
役員への報酬
グループ会社どうしのお金の移し替え
関係者個人への移転
流れ得る先は、いくつもあります。
そして、倒産手続きで取り立ての対象になるのは、あくまで「いま会社に残っている財産」だけです。
すでに外へ流れ出たお金は、手続きの網の外にあります。
逃がした財産を取り戻す手段も、一応あります。
否認権(破産や会社更生で、直前に不当に外へ流した財産を取り戻す権利です)の行使
役員個人への損害賠償請求
詐欺罪で有罪が確定した場合の、犯罪収益の没収・追徴
でも、そのどれもが、"すでに使われて消えたお金には届きにくい"。
費消され、現金化され、隠されてしまえば、取り戻す対象そのものが乏しくなるのです。
抜かれた金は、使われた瞬間に、相手の利益として固まってしまう。
これが、不正受給という手口の、いちばん厄介なところです。
NPOは「消えて」、株式会社は「存続を目指して、返さない」。
絆HDグループの中では、いま二つの違う出来事が同時に起きています。
申請した手続きが、法人によって違うからです。
株式会社4社(絆HD、レーヴ、リベラーラ、JOB connect) → 会社更生を申請(再建型)
NPO法人1社(リアン) → 自己破産を申請(清算型)
"株式会社4社"は、会社更生という再建型の手続きを選びました。
事業を続けながら立て直す建前で、返還請求などの借金は"更生債権"(立て直し計画に従って、一部だけ返される借金のことです。
多くは大幅にカットされます)として扱われます。
つまり株式会社のほうは、"存続を目指すが、税金は満額返さない"。
計画に沿って圧縮され、何割かが、何年もかけて分割で返ってくるかどうか。 それも、再建が成功すればの話で、途中で破産に移行する可能性もあります。
一方、"NPO法人リアン"は、自己破産という清算型の手続きを選びました。
法人の財産をすべて処分して、最後は法人そのものが消滅します。
なぜリアンだけ破産なのか。
"会社更生法は、株式会社にしか使えない"からです。
NPO法人は、この法律で立て直すことができない。
ここに、痛烈な皮肉があります。
2022年度に、最初に加算金の異常な急増を指摘された事業所。
それが、このNPO法人リアンの事業所でした。
社会貢献を名目に設立されたはずのNPOが、入口で最初に問題視され、最後は破産で消えていく。
リアンの負債は約74億円。
ここに含まれる税金が戻る見込みは、極めて薄い。
(※法人が消滅しても、理事個人の責任追及や刑事手続きは別途残り得ます。ただし、それで巨額が戻る保証はどこにもありません。)
株式会社は存続を目指して、返さない。
NPOは消えて、返せない。
どちらの道をたどっても、投じられた税金は、戻ってきにくいのです。
「なかったこと」にする手続きが、ちゃんと用意されている。
そして、最後の話です。
回収できないと確定したお金を、行政は最終的にどう処理するか。
"不納欠損処理"(回収不能と確定した債権を、自治体が正式に帳簿から落とす会計処理のことです)といいます。
つまり、「うやむやになる」というのは、曖昧な放置ではありません。
"消すための正式な手続きが、制度としてあらかじめ準備されている"ということです。
もちろん、すぐには消せません。
倒産手続きの結果を待ち、時効や議会の手続きを経て、何年もかけて、最後に帳簿から落とされる。
記者会見は開かれません。
ニュースのテロップも流れません。
ある年度の決算の中で、淡々と線が引かれて、終わる。
それが、この種のお金のたどる道です。
おそらく、こうなる。── 数字で見る、いちばん冷たい見通し。
ここからは、断っておきます。
以下は確定した事実ではありません。
回収額が最終的にいくらになるかは、これからの会社更生・破産の手続き次第で、今は誰にも確定できません。
ただ、ここまで説明してきた仕組みから考えて、"おそらくこうなるだろう"という見通しとして書きます。
大阪市が求めた返還額は、約110億7650万円。
不正受給分 約79億円
4割のペナルティ(加算金) 約31億円
このうち、戻ってくる見込みは──
株式会社4社の分 → 更生計画で大幅に圧縮される
NPOリアンの分 → 破産配当でわずかに戻るか、ゼロか
ペナルティの4割部分 → 後回しにされる可能性が高く、期待しにくい
楽観的に見ても、戻るのは請求額の一部。
最悪の場合、ほとんど戻らない。
そして思い出してください。 このお金の原資は、半分が国税でした。
戻らなければ、全国の納税者が出した数十億円分の公金が、回収されないまま手続きの中に沈んでいく。
これが、いちばん冷たい見通しです。
始末を、誰がつけるのか。
この法人と会社の手口が悪質だという点は、僕の評価としてはっきり書いておきます。
そこに、ためらいはありません。
その上で。 大阪市の横山市長は、会社更生の申請を受けて「計画は果たされないことになる。非常に残念だ」と述べました。
残念。
たった二文字で済む話でしょうか?
蛇口を握っていたのは、行政です。
異常な請求の急増に気づきながら、止める根拠ができてからも、止まるまでに時間がかかった。
入口の審査も、途中のチェックも、出口の回収も、すり抜けられた。
その代償が、数十億円。
それが事業者の手元で使われ、隠され、最後は帳簿から線を引かれて"なかったこと"にされる。
そして残るのは、「残念だ」という一言だけ。
ふざけるな。
と思う。
これは僕の意見です。
消えるのは、誰の金か?
原資の半分は、国民全員が納めた国税だ。
大阪市民だけの問題ではない。
あなたの税金が、この国のどこかで、こうして手続きの中に沈もうとしている。
「残念だった」で頭を下げて、それで終わらせていいはずがありません。
誰が、いつから、その異常な数字に気づいていたのか。
止める根拠ができてから、なぜなお時間がかかったのか。
回収できなかった数十億円は、最終的に誰が、どう責任を取るのか。
せめて、"消えかけている"という事実だけは、見過ごしてはいけない。
それを問い続けることが、次の絆HDを生まないための、最低限の歯止めだと考えています。
謝罪だけで、済ますつもりか?

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