「現場は変わらないと思っていた」 第6話「考える監督」
陽菜は、仕事を覚えるにつれて少しずつ変わっていった。
ある日、慌てた様子で俺のところへ来た。
「○○さん!」
「どうした?」
「図面をどこかに忘れてきちゃいました!」
「えっ!?」
図面はただの紙じゃない。
現場の情報そのものだ。
風で飛ばされたり、誰かの目に触れたりしたら大変なことになる。
その日は仕事をしながらも、どこか気になっていた。
すると、運よく図面を見つけた。
「ほら。」
そう言って渡すと、
「ありがとうございます!」
陽菜は笑顔で受け取った。
「気をつけろよ。」
そう言うと、
「はい!」
相変わらず笑っている。
「……緊張感ないな。」
そう思いながらも、その笑顔が陽菜らしかった。
でも、この出来事をきっかけに、俺は別のことを考えていた。
「いつまで紙の図面を持ち歩くんだ?」
「iPadがあるじゃないか。」
現場も少しずつ変わり始めていた。
便利なものは使えばいい。
紙にこだわる必要はない。
そして、それ以来。
陽菜は必要以上に紙を持ち歩かなくなった。
仕事の打ち合わせも、図面を広げることより、iPadで確認することが増えていった。
こういう小さな変化の積み重ねが、人を成長させるんだと、俺は感じていた。
ここから、陽菜の本当の力が見え始めた。
現場の理屈が分かってくると、今度は自分の得意なことをどんどん仕事に生かし始めた。
iPadを使って図面を確認する。
判断に迷えば、その場で上司に連絡を取り、すぐに確認する。
資料も自分で作る。
CADも使いこなす。
現場を知り、デジタルも使える。
その強みが少しずつ仕事に表れ始めていた。
俺はその姿を見て思った。
「なるほど。現場の理屈さえ分かれば、この子は強い。」
陽菜は、見た目の印象とは違って、結構な負けず嫌いだった。
俺が細かいことを指摘すると、
「……すみません。」
少し不機嫌そうな顔をすることもあった。
でも、それで終わらない。
ある日、また同じように指摘すると、
「そこは、こういう理由で、こうなります!」
今度は自分の考えを説明してきた。
「……おっ。」
思わず驚いた。
前なら素直に聞くだけだった陽菜が、自分で考え、自分の言葉で話してきた。
もちろん、言い返されたから嬉しかったわけじゃない。
自分で考えられるようになったことが、嬉しかった。
関連記事
いいなと思ったら応援しよう!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。現場で長く学んできたことを、飾らず正直に書いています。「読んでよかった」「また読みたい」と思っていただけたら、応援していただけると励みになります