掌編「パフェ問答」#538

「終わったね」
「いえ、終わらないです」
 予想外に強く返され、田川は怯む。
「証拠も押さえてるんだけど」
「パフェに、虫が混入している、写真ですか」
「動画もある」スマホの画面を爪で叩く。
「ネットに拡散を?」
 店員は表情ひとつ動かさない。
「終わるだろ。完璧なパフェに虫なんて。穏便に済ませたいなら」
「終わらないですね」
 田川はボックス席の上で仰け反る。「強がるなって」
「強がる?」言外に、私がですか? と示しつつ、「お客様、今し方『完璧なパフェ』とおっしゃいましたね。『パフェ』の言葉の由来がフランス語の」
「『parfait(完璧な)』からきてるんだろ。知ってるよ」
「やはり。ご自分で、そうおっしゃいましたね」
「なんなんだよ、さっきから」
「では申し上げますと、虫の混入の証拠をばら撒かれたからといって、私どもの店は、残念ながら終わりません。問題はそこではなく、お客様の訴えは本質とはやや乖離があるからです」
「な、ないだろうが」
 田川はいつの間に引き寄せていたスマホを、もう一度、店員に示すように突き出す。一本指を立てた、かのような調子で、直立不動の店員が喋る。
「いえ、あります。お客様自身、そのことは理解なさっているはずです」
「はあ?」
「パフェは完璧を意味するデザートです。虫が混じってしまっては、それは完璧ではありません」
「わかっているんじゃないか」
「お客様こそ、わかってくださっているようで何よりです。つまりこれは、虫が混入したものを提供してしまった、というミスではないのです。正確には」
 聞きながら、田川は考える。
 「完璧な」ものを頼まれて、完璧でないものを供した。それはつまり……?
「どこの飲食店でもよく起こり得る、初歩的なオーダーミスです」
 顔を上げると、店員と目が合った。
「その程度の誤りで、飲食店が終わると、本当にお思いですか?」

おわり


振り返りのコーナー(#537)

今回もそうだけど、想定より長くなってる。長いプラス人物が多いと書き分けが難しい。が、ミスリードは、まあ、良さげ?

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