NZラグビー界は選手流出を止められるのか?
ニュージーランドラグビー界では、ベテランのスター選手がワールドカップを区切りに海外移籍に動くのは、プロ化以降ずっと続いてきた既定路線でもありますし、これからも続いていくでしよう。
ここまではNZR側もある程度織り込み済みでしょう。ただ、今ニュージーランドラグビーにとって本当に厄介なのは、その一つ手前の層です。つまり、ワールドカップ前年の段階で、中堅の実力者たちがまとまって国外へ流れ始めている事です。 ダルトン・パパリイさん、ホスキンス・ソトゥトゥさん、AJ・ラムさん、ダラス・マクロードさん、ブレイドン・エノーさん、セヴ・リースさん、フェヒ・フィネアンガナフォさんらの動きが象徴しているのは、NZRが想定してきた「ベテランの周期的流出」とは別の問題です。
この層は、いわゆるスター候補というだけではありません。各クラブの練習強度を引き上げ、毎週のパフォーマンスを安定させ、タイトル争いの終盤でも仕事をする、まさに屋台骨のような存在で、代表の絶対的主力ではなくても、クラブにとっては最も価値の高い層と言っていいでしょう。
彼らが国内に残り続けにくい理由の一つが、報酬です。 RugbyPassに寄稿されたGregor Paulさんの記事によると現在、スーパーラグビークラブが選手に支払える年俸上限は19万5000NZドル、日本円でおよそ1820万円ほどです。一方でオールブラックス候補に入るトップ層には、NZRから年間10万NZドルから80万NZドル、日本円で約930万円から約7460万円の上乗せが入り、さらに代表活動では週ごとに7500NZドル、約70万円の招集手当まで加わりるそうです。つまり、国内トップ層の年収は、合計で約3270万円から1億260万円規模になります。
トップ層はNZRの上積みや代表活動手当によって大きく収入を伸ばせる一方で、代表争いから少し外れた中堅層は、どうしても「国内残留」と「海外オファー」を天秤にかける構図になりやすくなります。スーパーラグビー契約で約1310万から1590万円、NPCでさらに約280万から370万円。この水準でももちろん安くはありませんが、その層の選手や代理人は、ワールドカップ前年の今が最も条件を引き出しやすい時期だと理解しています。何故なら翌年になると海外クラブの予算が、スター選手獲得に回る可能性が高いからです。
この問題を受けて、NZRとNZRPA(選手会)は2026年から2028年までの新しい協定を締結しました。公式発表によれば、この協定では引き続き選手側が選手が生み出した収益の36.56%を受け取る一方で、選手引き留めへの年間投資の増額、長期在籍選手への追加支給、全プロ選手に追加報酬や福利厚生が行き渡るための配分枠、そして教育・資産形成・健康と安全への投資強化が盛り込まれています。NZRPAもこの新しい提携協定を、変化する市場環境に対応するための重要な施策と位置づけています。
さらに将来人材の確保に向けて、新たな奨学金基金も創設されました。さらに将来人材の確保に向けて、新たな奨学金基金も創設されました。2026年には最大50万NZドル(約4665万円)、2027年と2028年には各年最大100万NZドル(約9330万円)が投じられる予定です。女子側ではSuper Rugby Aupikiの新たな契約モデルや、医療・生命・重大疾病保険の補償拡大も盛り込まれました。
そして新しい協約では、スーパーラグビー在籍7年の選手に 年間5万NZドル(約470万円)、5〜6年で 3万5000NZドル(約330万円)、3〜4年で 1万2500NZドル(約117万円)、1〜2年で 5000NZドル(約47万円) のロイヤルティ支払いも用意されました。さらに、ダルトン・パパリイさんやブレイドン・エノーさんのような経験者を引き留めるための追加原資として、 75万NZドル(約7000万円) の基金も設けられました。 つまりNZRも何もしていないわけではなく、制度面ではかなり明確に引き留め策を打ち始めています。
選手会の最高責任者のロブ・ニコルさんは、経験豊富なスーパーラグビー選手たちがあと1年か2年長く残るよう促す方法を見つけることが、この協約における焦点の一つだったと語っています。
それでも、問題の核心はやはり報酬だけではありません。結局のところ、多くの選手の進路が「オールブラックスに入れるかどうか」で決まってしまう構造があります。代表に呼ばれれば報酬も評価も跳ね上がります。逆に、そこから外れた瞬間に、国内に残る理由が一気に薄れます。この構図が続く限り、中堅層は「クラブに必要だから残る」よりも「今が最後の高値だから出る」を選びやすいままです。1年か2年後に現状より良いオファーが届く保証はありません。
この問題は、すでにクラブの戦力維持にも深刻な影響を与えています。特にブルーズのように、優勝に貢献した中核選手が数年単位で連続流出していくケースでは、単年の優勝はできても王朝形成は難しくなります。若手は育つ。しかし脂の乗った中堅が抜ける。これが繰り返されれば、国内大会の質も、チーム文化の継承も、当然揺らぎます。
そして更に深刻な問題は、スーパーラグビークラブに残ってほしい選手たちを引き留めるための交渉材料や資金をほとんど持っていないという点です。さらに、報酬制度は中央集権化されており、選手会とのNZRの雇用協約によって全面的に決められているからです。
ニュージーランドのスーパーラグビー各チームのスコッドの平均年齢は、わずか24歳だそうです。これは、ニュージーランドラグビー界が幅広い選手層を見いだし、育成し、投資した成果でしょう。しかし、それによって順調に成長した選手はスーパーラグビーで5年から6年の経験を積むとチームを去ります。そして結果的にその恩恵を受けるケースが多いのが海外クラブでである事も問題視しなければなりません。
ニュージーランドは、スターの流出には慣れています。問題は、スターになる前後の一番脂の乗った層を、今かなりの勢いで失っている事です。NZRは新たな制度でこれは食い止めようとしています。ですが、その制度が本当に効くのかどうかは、これからの数年後を見てみないとわかりません。
記述元 RugbyPass 「The wave of mid-tier players being snapped up by overseas clubs is hurting New Zealand」
https://www.rugbypass.com/plus/wave-mid-tier-players-overseas-hurting-all-blacks/
1News「Players boosted by improved NZ Rugby agreement」
https://www.1news.co.nz/2026/02/23/players-boosted-by-improved-nz-rugby-agreement/
