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川の街リュオーレの物語⑫ 小景(6) 満月の夜

にぎやかに響いていたセミの鳴き声が、いつの間にか止んでいた。
ハルナギは読んでいた書物から顔を上げ、窓の外を見た。

夕方沸かしたお茶は、もうほとんど残っていない。
もう湯気は立たず、ほのかに甘い香りだけが漂っている。

最後のひと口を飲み、もう一度外を眺めた。

思いのほか、夜が明るい。

ハルナギは、少し首を傾けた。

……満月か。

書物にしおりをはさみ、椅子から立ち上がった。

差し込む月の光で、部屋に長い影ができている。

サンダルを履いて外に出た。
庭の山野草が、淡く輝いている。
盛夏を彩る、白や青紫の花。
月の光に照らされて、日中よりもさらに涼しげに見えた。

遠くでフクロウの鳴く声が聞こえた。
少しの間、ハルナギは耳を澄ませた。
また、鳴いた。丘の上の方からだろうか。

数日前から、街では夏の祭りが開かれている。
中でも満月の晩は、人が途切れないらしい。
そんな話を、毎年どこかで耳にする。

昨日までは雨が続いていた。
今夜は人出が多そうだ。

ハルナギは、庭の端からセナーグ川の方を眺めた。
灯りが、いつもよりずっと多い。
西の橋にも提灯が吊るされているようだ。

移り住んでいった者たちも、この日ばかりは戻ってくる。
祭りは深夜まで続いていくことだろう。

ただ、その喧騒は、ここまでは届いてこない。

足元で、草がわずかに揺れる。
横を見ると、少し離れたところに小さく光る尻尾が見えた。

「来たんだ……」心の中でつぶやく。

ハルナギは空を見上げた。
丸い月が青白い光を放っている。

草むらの小さな尻尾も、月を見ているようだった。


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リュオーレの物語 道しるべ|湖上珊歩