F・スコット・フィッツジェラルド「氷の宮殿」|劇団ともだおれが金沢で公演します
大学を卒業したばかりの若い友人たちが新たに「劇団ともだおれ」を立ち上げ、その初回公演にフィッツジェラルドの短編を原作として選んだという知らせをいただきました。数ある英米文学の中でも特に好きな作家で、こんな身近なところで芝居バージョンを見られることは嬉しい驚きです。
芝居といえばフィッツジェラルド
F・スコット・フィツジェラルドといえば、代表作の『グレート・ギャツビー』は村上春樹による翻訳や、コッポラ脚本・レッドフォード主演の映画版(1974)、ラーマン監督・ディカプリオ主演の映画版(2013)で知られています。この作品をはじめとして、フィッツジェラルドは、登場人物があたかも芝居の舞台に立っているかのような小説をよく書いています。バズ・ラーマン版で、ディカプリオが花火を背にグラスを掲げて笑顔を向けている場面は、原作者の芝居的表現をよく反映させた映像だと思います。フィッツジェラルドは『ギャツビー』発表前に戯曲『植物』を書いて発表してもいます。ブロードウェイで脚本を書いて金を稼ぎたいという野望があったようです。彼が劇作家として大成することはありませんでしたが、その技法は小説で大いに活かされていたことでしょう。
というわけで、遠い日本で自作が芝居化されることは、フィッツジェラルドにとっても、とても嬉しいことだろうと思います。劇団ともだおれが今回演じる「氷の宮殿」は、あまり人口に膾炙している作品とは言えないかもしれませんが、フィッツジェラルドが作家としてデビューした年に発表した作品で、円熟した彼の作品に見られる魅力の萌芽が多々あります。単体の作品として見ても、デビューしたばかりの作家とは思えないほどの完成度があります。見逃せないのは、この作品にもやはり、演じると映えるだろうなという場面が散りばめられていることです。
見どころを予想
「氷の宮殿」は、温暖なアメリカ南部ジョージア州に住むサリー・キャロルが、北部から来た男ハリーと結婚するために彼の住む北部に行くのだが、そこで気候や文化といった面で南北のギャップに苦しみ……という作品です。これだけだと県民性のような偏見に満ち溢れた作品かのように見えるかもしれませんが、そうではありません。サリー・キャロルは冒頭から、南部で悠々と暮らす自分の中に、それとは異なる衝動を抱えています。そうした内部での分裂が、彼女を北部へと導くわけです。したがってこの作品は、ひとつの土地で穏やかに暮らしていきたい感情と、外に飛び出して新たなことを知りたいという若い衝動の結果として生じた冒険ということになります。感情豊かな魅力に溢れるサリー・キャロルの冒険の結末は、やはり一義的には解釈できない複雑な味わいのあるものです。24歳でそれを書くフィッツジェラルドの才能に改めて驚きつつ、それを同年代の人々がどう演じるのか、興味深く見たいと思っています。南部の温かな陽光のもとで佇む男女の姿や、壮麗な氷の宮殿の中で身を横たえる主人公の姿を、どのように演じてくれるのでしょうか。真夏と真冬を短い時間で行き来する舞台の様子にも注目したいと思います。
こうした季節の往来と冬の描写には、イーディス・ウォートンの『イーサン・フロム』と『夏』からの強い影響が見られます。その意味で、フィッツジェラルドだけでなく、広くアメリカ文学の愛好家も楽しめそうです。
公演は3月28日と29日、場所は金沢市民芸術村です。3月は、作中では、サリー・キャロルとハリーが結婚式を挙げる予定の月。公演の成功を祈ります。


