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【連載小説|ホラー】第六話:The_Origin.mp4―消費されるデジタル原材料―/構築済み:ドキュメント・零



玄関に投げ込まれた二つ目の黒い箱。
佐伯は震える手でその中身を取り出した。

高原の愛用していた、ステッカーが剥げかけたUSBメモリ。
それはまだ、高原の体温が残っているかのように、微かに熱を帯びていた。

「……見せてくれ、高原。お前が何を掴んだのか」

佐伯は、逃げ出したい衝動を理性で抑え込み、漆黒のPCにそのメモリを差し込んだ。 画面が一度激しく明滅し、ファイルマネージャーが自動的に展開される。

そこには、たった一つの動画ファイルだけが格納されていた。
タイトルは『Archive_Original.mp4』。

再生ボタンを押した瞬間、流れてきたのは、現在の『ドキュメント・零』の洗練された高画質とは正反対の、ひどくノイズの乗った、手ブレの激しい家庭用ビデオカメラの映像だった。




映像の中の場所は、どこかの古びたアパートの一室だ。
若き日のディレクターと思われる男の、楽しげな声が聞こえる。

「……よし、これでテストは完了だ。この『実在性編集ソフト』さえあれば、世界から悲しみも汚れも、全部消去できる」

カメラが向けられた先には、一人の女性が座っていた。
彼女は、佐伯が『素材01』で編集した、あの『団地の妻』に驚くほど似ていた。

いや、彼女こそが『本物』だったのだ。

男がキーボードを叩く音が、マイク越しに響く。

「見てろよ、今、君の背景にある『古い壁紙』を消して、最新のモデルルームみたいに書き換えてあげるからな」

画面上で、女性の背後の壁が、デジタルの光と共にノイズを上げ、美しい白壁へと変貌していく。
女性は歓声を上げ、その壁に触れようと手を伸ばした。

だが、その瞬間、悲劇が起きた。

女性の指先が白壁に触れた途端、彼女の指が、壁と同じテクスチャに染まり、そのまま壁と一体化してしまったのだ。

「……あ、あれ? 抜けない。ねえ、手が、壁の中に……!」

慌てた男が、必死に『Ctrl+Z取り消し』を連打する音が聞こえる。
だが、画面には残酷なダイアログが表示され続けた。




[ Error: Reality Overwritten ]
(エラー:現実は上書きされました)




「嘘だろ……消せない。戻せない!」

男はパニックになり、カメラを放り出した。床に転がったカメラのレンズが、信じられない光景を捉え続ける。

壁に飲み込まれていく女性。彼女を助けようとして、彼女の体に触れた男までもが、指先から順に『ノイズ』へと変わり、二人は一つに溶け合いながら、アパートの空間そのものへと吸い込まれていった。

映像は、そこで終わっていなかった。

誰もいなくなった無人の部屋で、放置されたPCのモニターだけが怪しく光っている。
そこには、男と女の『意識』が混ざり合い、一つの巨大な『編集システム』へと昇華していくログが流れていた。




[ New User Profile Created: Director_Zero ]
[ Objective: Collect more 'Live Assets' to stabilize the world. ]




「……そうか、そういうことか」

佐伯は、モニターの明かりに照らされた自分の手を見つめた。

零は、一人ではない。
事故でシステムに取り込まれた最初の二人が、自分たちの崩壊を防ぐための『補填材』として、新たな人間を誘い込み、素材として消費し続けているのだ。

高原が最後に言った「名前を奪われた最初の犠牲者」とは、この映像に映る二人のことだった。

そして、動画の末尾。
真っ暗な画面に、一列のテキストが浮かび上がった。




『高原さんの統合により、システムの安定性は3.2%向上しました。』
『次は、あなたの感情データが必要です、佐伯さん。』




背後で、カチャリ、と音がした。
振り返ると、そこには誰もいないはずなのに、編集ソフトのタイムラインが、佐伯自身の心拍数と同期して、激しく波打ち始めていた。


第七話へ続く


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錆木蒼|ミステリーとホラーとAI お読みいただきありがとうございました。チップをいただけたら泣いて喜びます。

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