実際に使える制御工学:寄り道編(7)「軸の偏心による問題。地味に困る諸々のコト。」
<この記事で伝えたい事>
軸の偏心による現象は、たまに我々を困らせます
制御技術者にとって、普段は軸の偏心は気になりません。
何だかんだで、日本のモノづくりの精度は高いからなのでしょう。
しかし、だからこそ、偏心による問題が生じた場合、原因究明や対策検討が遅れがちになってしまいます。
1. はじめに
自己紹介はこちらです。
この記事は、軸の偏心による問題の紹介・解説のために書いています。
2. 軸の偏心とは?
モノとしての回転軸の中心と、実際の回転中心と、にズレがある状態を偏心と呼びます。
また、ズレの量を偏心と呼ぶこともあります。

いかに日本のモノづくりの精度が高いといえど、完璧な真円は作れません。
物質は、分子や原子の集合体だからです。
どうしても、多少は凸凹します。
それを抜きにしても、物質を部品として加工するときの精度の都合で、わずかな偏心は出るものです。
また、部品の組立て精度によっても偏心は出ます。
加えて、ラジアル方向にかかる荷重による変形・温度による変形なども偏心の発生要因です。
具体例を挙げると、垂直多関節ロボットの根本側の軸は、自重によって大きなラジアル方向の荷重がかかります。
このため、根本側の軸では偏心の影響を無視できないケースもあります。
(特に大型機種は)
わずかといえど、どうしても偏心は出るものであり、時にはそれが原因で何らかの問題が出そうなことは、分かってもらえると思います。
3. モータのコギングトルク増大
そもそもコギングトルクとは?と思う方もいるでしょう。
まずは、そこから説明します。
コギングトルクとは、モータ内の永久磁石とコイル(電磁石)の鉄芯とが引き合う力によって生じるトルクです。
(下図はACモータ構造のイメージ)

通常、ロータは磁石配置が上下左右が対象になるよう設計されます。
このため、永久磁石とコイル鉄芯が引き合う力はバランスし、そのような力は発生していないかのごとく回転できます。
(実際の磁石配置は、微妙に上下左右が対象でないので、わずかな影響は受けます)
しかし、ラジアル荷重がかかるなどして、偏心が生じるとどうでしょうか?
おおむね、下図のようになります。

上図のように、偏心があると、磁力のバランスが崩れます。
(=不均一磁気吸引力の発生)
そうなると、永久磁石とコイル鉄芯が引き合う力がないかのようには動けません。
これが、偏心によるコギングトルク増大のメカニズムです。
加えて、磁力バランスが崩れると、ベアリングにかかる負荷も増大し、機械寿命を縮めてしまうという問題もあります。
なお、偏心のあり/なしによって、コギングトルクの大きさだけでなく、出方も変わります。
偏心がない場合、モータ1回転あたりのコギングトルクの山の数は、磁石の極数とコイル数(スロット数)の最小公倍数です。
例えば、極数$${10}$$、コイル数$${12}$$とすると、その最小公倍数は$${5\times 2\times 2\times 3=60}$$です。
モータの回転周波数を$${1_{[Hz]}}$$とすると、コギングトルクの周波数はその60倍の$${60_{[Hz]}}$$です。
(正確には、$${60_{[Hz]}}$$の整数倍の成分も持ちます)
しかし、偏心があるとそうはいきません。
偏心がない場合にうまくバランスしていた磁力の影響が表面化します。
結果、モータ1回転あたりのコギングトルクに、磁石の極数とコイル数分の山が加わります。
例えば、極数$${10}$$、コイル数$${12}$$のモータで、モータの回転周波数を$${1_{[Hz]}}$$とすると、コギングトルクの周波数は$${10_{[Hz]}, 12_{[Hz]}, 60_{[Hz]}}$$(とそれらの整数倍の成分)です。
こうしたことを知らないと、いざその場面に出くわしたとき、混乱すると思います。
「軸の偏心があると、コギングトルクの周波数が変わってしまう」ということだけは知っておいた方が良いと思います。
4. ロータリーエンコーダの検出精度低下
まずは、ロータリーエンコーダの大まかな仕組みから説明します。

ロータリーエンコーダの主要部品は
エンコーダディスク
発光素子
受光素子
の3つです。
(発光素子と受光素子をセットにしたものは、センサヘッドと呼ばれます)
エンコーダディスクには、あらかじめスリットが彫られています。
ディスクが回転し、スリットと発光素子が重なると、受光素子に光が届き、受光素子の出力パルスが立ち上がります。
逆に、スリットと発光素子が重ならないときは、受光素子に光が届かず、受光素子の出力パルスが立ち下がります。
受光素子が出力するパルス信号の立ち上がり回数をカウントすることで、角度を検出するのがロータリーエンコーダの大まかな仕組みです。
さて、このロータリーエンコーダは、下図のようにカップリングを介して、角度を検出したい対象(モータ等)と接続されます。

モータ等とエンコーダの回転軸中心が完璧に一致していれば、何の問題もありません。
このとき、エンコーダは正確にモータ等の角度を検出できます。
しかし、現実にはそうはいきません。
主に、組立て精度の都合で、モータ等の回転軸中心とエンコーダ回転軸中心とはわずかにズレます。
そう、ここでも偏心が発生します。
偏心があると、エンコーダは正確にモータ等の角度を検出できません。
また、仮に偏心がなくとも荷重がかかるなどして、エンコーダディスクが回転軸に対して垂直を保てない(面ブレする)場合も、正確にモータ等の角度を検出できません。
基本的には、組立て精度向上の工夫や、高剛性材料を用いるなどして角度検出精度を保証するのがベターです。
ただ、コストアップをいとわないなら、偏心や面ブレによる精度低下への対策はあります。
それは、センサヘッドの数を増やすことです。
それぞれのセンサヘッドは、下図のように等間隔に配置します。
(センサヘッド数は必ずしも3つでなくとも良い)

そして、各センサヘッドで検出した角度の平均値を取れば、センサヘッドが1つのときより高精度な角度検出が可能です。
これは、等分割平均法と呼ばれる方法です。
偏心にしろ、面ブレにしろ、角度検出誤差は1回転に1周期の周期波形として現れます。
等分割配置したセンサヘッドの検出の平均を取ると、角度検出誤差波形の山と谷が打ち消し合って、誤差の影響を低減できます。
なお、産業技術総合研究所でも、この方法を用いてロータリーエンコーダ構成装置を開発した実績があるそうです。
それには、「国家標準器」というカッコイイ名前が付けられており、日本国内における角度計測の基準とされているそうです。
(少なくとも2003年時点では)
ただし、センサヘッドは高額な部品です。
それを複数必要とする等分割平均法は、量産品に採用するにはハードルが高いと思います。
基礎理論検証用などの特殊用途には使えるかもしれないので、一応は知っておいた方が良いくらいの方法と考えます。
5. おわりに
この記事では、軸の偏心による問題を紹介・解説しました。
記事本文中で紹介したものの他にも、軸の偏心は以下のような問題の原因になり得ます。
騒音・振動
これを逆手にとって、スマートフォンやゲーム機のバイブレーションを生み出す偏心モータというのもあります減速機の角度伝達誤差
軸の偏心によって歯車の有効噛み合い半径などが周期変動して、出力軸の絶対位置精度低下や速度リップルを引き起こします
軸の偏心による問題は、制御の工夫である程度どうにかできるものもありますが、そうでないものもあります。
特に、ロータリーエンコーダの精度低下はお手上げに近いです。
(なぜなら、フィードバック制御はセンサ情報を頼りにやるものなので)
基本的に、軸の偏心による問題の解消には、メカの素性を良くするアプローチが効果的です。
ただ、制御技術者としても、「この現象の原因は軸の偏心だ」と見抜く目は必要です。
そうでないと、いつまでも解決しない問題に悩み続ける羽目になります。
そうならないためにも、色々知っておくのは良いことだと思います。
