実際に使える制御工学:寄り道編(2)「PWM制御。制御屋が知っておきたいパワエレ知識。」
<この記事で伝えたい事>
PWM制御とは、インバータの駆動方式です
制御と名前は付きますが、制御工学の産物ではありません。
パワーエレクトロニクス分野の技術です。
ただ、制御技術者が周辺技術として知っておくと、できる仕事の幅が広がります。現代において、PWM制御は様々なモノへの電力供給に不可欠な技術です
各種メカトロニクス機器への電力供給にもPWM制御は使われています。
1. はじめに
自己紹介はこちらです。
この記事は、制御工学の周辺技術としてのPWM制御の紹介・解説のために書いています。
ただ、私の専門分野はパワーエレクトロニクスではありません。
専門家から見れば粗が目立つかもしれませんが、
「制御屋さんならこんなもんか」
とご笑読ください。
2. インバータとは?
本来は、
「直流(DC)の電気を交流(AC)の電気に変換する装置」
を意味します。
しかし、メカトロニクス業界では、
「商用の交流電圧(周波数50 or 60[Hz])を一旦は直流電圧に変換して、そこから自分たちが欲しい周波数の交流電圧を作り出す装置」
を意味することが多いです。
まぁ、直流から交流に変換はしているので、広い意味では間違いじゃないと思います。少しややこしいですけど。
ちなみに、装置全体の
「商用の交流電圧(周波数50 or 60[Hz])を一旦は直流電圧に変換」
する部分は、正確には「コンバータ」と呼ばれる装置です。
3. PWMインバータの概要
PWMインバータとは、電気的なON/OFF状態を切り替えできるスイッチング素子(FET等)を駆使して、負荷にかける電圧をバチバチ切り替えて電流を流す装置です。
(ちなみに、世の中にはPWMでないインバータも存在します)
電気的なON状態とは?
電線がつながっていて、電流が流れる状態
電気的なOFF状態とは?
電線が切れていて、電流が流れない状態
FET(Field Effect Transistor、電界効果トランジスタ)は、
ゲート(G:Gate)
ドレイン(D:Drain)
ソース(S:Source)
と名付けられた3つの端子を持ちます。
ゲートに電圧をかけるとFETがON(電線がつながる状態)になります。
また、ゲートに電圧をかけるのをやめるとFETがOFF(電線が切れた状態)になります。
下2図はFETのだいたいの動作イメージです。
(正確にはちょっと違うかもしれませんが)


FETを利用すれば、負荷に電圧をかけたり・かけなかったりできます。
これにより、負荷にかける電圧を調整できます。
PWM制御はFETのON/OFFの決め方と捉えれば、だいたい合っています。
なお、PWMインバータが負荷にかけられる電圧は、基本的にプラスのMAX電圧・マイナスのMAX電圧の2種類です。
(2レベルインバータ)
一応、かける電圧を段階的に変えられるタイプもあります。
ただ、それには多くのFETが必要であり高価になりがちです。
このため、使われる場面は限定されます。
(大容量かつ低ノイズの電源が必要なモノには使われるそうです)
PWMインバータの主なメリットはFETがOFFのとき、ほぼ完全に電流が流れないことです。
これにより、無駄な電力消費を抑えた高効率運転が可能です。
(例えば、リニアアンプだとこうはいきません)
4. PWMインバータの回路動作
基本動作を理解しやすいので、2レベルインバータを前提に説明します。
これは、モータに対して、プラスのMAX電圧・マイナスのMAX電圧の2種類しかかけられないインバータです。
(かけられる電圧が2種類なので2レベル)
下図が、2レベルインバータの電気回路図です。

Q1~Q4はFETです。
2レベルインバータは、1つの直流電源と、4つのFETで構成されます。
(実際は、回路保護のため、モータから電流が逆流したときの逃げ道になる還流ダイオードがそれぞれのFETにつなげられます)
4つのFETのON/OFFをバチバチ切り替えて、負荷(モータ)にかける電圧を調整し、電流を流します。
このFETの切り替え方には、大事なルールが存在します。
大事なルールとは以下3つです。
■ルール1
Q1とQ4のON/OFF状態は同じでないとならない
(Q1とQ4はペア)
■ルール2
Q2とQ3のON/OFF状態は同じでないとならない
(Q2とQ3はペア)
■ルール3
Q1&Q4ペアとQ2&Q3ペアのON/OFF状態は逆でないとならない
これらルールを守ってFETのON/OFFFを切り替えれば、下2図のように電圧の方向を切り替えて、モータに流れる電流を調節できます。


ただ、この電気回路には実用上で注意すべき点が1つあります。
それは、一瞬でもQ1とQ2(またはQ3とQ4)が同時にON状態になると、FETに大きな電流が流れてしまうことです。

ショートによってFETが壊れるというのは
「なんか正しく動かなくなっちゃった」
というカワイイものではありません。
FET素子の破裂や発火を伴うことも多い危険なものです。
実用の際は、この危険を避けるための例外ルールが適用されます。
それは、FETのON/OFFを切り替えるとき、意図的にわずかな時間だけ全FETをOFFにするというものです。
このわずかな時間をデッドタイムと呼びます。
5. PWM制御の基本的な考え方
まず、デッドタイムのことは一旦忘れてください。
仮に、1[ms]の間に1度だけPWMインバータのFETのON/OFFを切り替えるとします。
加えて、直流電圧$${V_{dc}}$$=100[V]として、負荷にかける電圧を60[V]にしたいとします。
Q1&Q3ペアがONのとき、負荷にかかる電圧は100[V]です。
一方、Q1&Q3ペアがOFF(=Q2&Q4ペアがON)のとき負荷にかかる電圧は-100[V]です。
となれば、1[ms]の間の80%をQ1&Q3ペアをONにして、残り20%はOFFにすれば、1[ms]中の平均電圧が60[V]になって、負荷にかける電圧を近似的には60[V]にできそうです。
(下図はそのイメージ)

高速でON/OFFすると、負荷にかかる電圧はQ1&Q3ペアのON比率に応じた平均電圧とみなせます。
これがPWM制御の基本的な考え方です。
このとき、Q1&Q3ペアがONになる時間の比率をデューティ比と呼びます。
6. PWM制御の実際
PWM制御の基本的な考え方は5章のとおりです。
ただし、実際に負荷(モータ)にかけたい電圧は、普通はリアルタイムに変わります。
毎度毎度デューティ比を計算し、リアルタイムにFETのON/OFFを切り替えるのはコンピュータにさえ大変な作業です。
そこで、任意の電圧波形を実現するスイッチングパターンを自動的に決める方法が考案されました。
その1つが三角波比較方式です。
(他にはノコギリ波比較方式などがあります)
この方式は、振幅が$${V_{dc}}$$[V]の三角波と任意の電圧波形とを比較し、
・任意の電圧波形が三角波より大きくなっている
タイミングでは、Q1&Q3ペアをONにする
(Q2&Q4ペアはOFF)
・そうでないタイミングでは、Q1&Q3ペアを
OFFにする
(Q2&Q4ペアはON)
というものです。
下図は三角波比較方式を使ったときのPWMインバータ動作イメージです。

これで本当に任意の電圧波形を再現できるのかを確認してみましょう。
任意の電圧波形を元に作り出した負荷電圧波形(PWMパルス波形)を下図に示します。

グラフが真っ青ですね。
電圧を高速でバチバチ切り替えているのでこう見えます。
($${V_{dc}}$$=100[V]なのでMAX・MINが±100[V]なことだけ辛うじて分かります)
これでは、本当に任意の電圧波形を再現できているか分かりません。
そこで、負荷電圧波形に高周波ノイズをカットするローパスフィルタ処理をかけてみましょう。

こうしてみると、負荷電圧波形(ローパスフィルタ処理後)は任意の電圧波形を精度良く再現できているのが分かります。
一般的に、機械や電気回路は天然のローパス特性を持つので、人為的な信号処理をせずとも自然と滑らかに動いてくれます。
話は変わりますが、
三角波の生成機能
それと任意の電圧波形を比較してFETをON/OFFする機能
は、電子/電気回路で実現できます。
一般的に、電子回路の動作速度はほぼ光速なので、コンピュータより各段に速く動けます。
このため、コンピュータの仕事は任意の電圧を決定するところまでとして、PWM制御は電子/電気回路におまかせするのが効率的なやり方です。
メカトロニクス業界でも、このやり方は標準的に使われています。
ここで、コンピュータ内で実行する制御計算は、突き詰めれば電圧指令を決めるものだということを思い出しましょう。
(モータの動きを制御する場合は)
この電圧指令を、三角波と比較する「任意の電圧」としてやれば、電子/電気回路が狙いどおりの電流を流すための電圧をモータにかけてくれます。
(これで制御工学がPWM制御とつながった!)
なお、「任意の電圧」と比較する波形(ここでは三角波)はキャリアと呼ばれ、その周波数はキャリア周波数と呼ばれます。
「任意の電圧」は、キャリアの1周期内で一度だけ更新するのがベストです。
ヘタに更新回数を増やすと、ノイズが強くなってモータの動きがガタガタになったり、妙な異音が出たりします。
このため、電流制御のサンプリング周波数(サンプリング時間の逆数)は、キャリア周波数と一致させると良いです。
最後に、ショート(短絡)防止のために設けたデッドタイムのことを思い出してください。
デッドタイムがあると、その影響で負荷にかかる実際の電圧は、コンピュータが電子/電気回路に受け渡す「任意の電圧」より少し小さくなります。
この小さくなる分を見越して、電子/電気回路に「任意の電圧」を受け渡す前にコンピュータ内で補正をかけると、より高い精度でモータに流れる電流を制御できます。
この補正をデッドタイム補償と呼びます。
7. おわりに
この記事では、PWM制御およびPWMインバータを紹介・解説しました。
PWMインバータの仕組みを理解せずとも制御技術は扱えますが、理解すれば多角的な視点をもって最適な仕様検討・製品設計ができるようになります。
何より、よく分からないものを仕事で使っていると、だんだん気持ちの悪さを感じてくることでしょう。
その気持ちの悪さをスッキリさせられるなら、それが今回の記事の成功なのです。
前回:寄り道編(1)「基本的な4つのフィルタ」はこちら
次回:寄り道編(3)「状態方程式」はこちら
付録1. コンバータ部分の回路動作
正確な定義は知りませんが、ここでいうコンバータは、ダイオードブリッジ回路+平滑コンデンサのことを指します。
まず、ダイオードとは、p型半導体とn型半導体というものを接合して、一方向にだけ電流を流す機能を持たせた素子(電子部品)です。
ダイオードをブリッジ状に組み合わせると、タイミングによってプラスにもマイナスにもなる交流電圧から、プラスだけの電圧を作り出せます。
これがダイオードブリッジ回路(全波整流回路)です。

見てのとおり、交流のマイナス側をプラスに反転させるだけなので、「これを直流電源として使うのはちょっと...」と思う波形をしています。
そこで使われるのが、平滑コンデンサです。
これをダイオードブリッジ回路の出力端に並列につなげれば、電圧波形が滑らかになります。

コンデンサは電気エネルギーをチャージする性質を持つ部品です。
モータ等を動かすときは充放電を繰り返すため、上図のように多少のギザギザを持ちますが、電圧波形をだいぶ直流(一定値)に近づけられます。
このコンバータを使えば、疑似的な直流電源を作りだしてインバータを動かせます。

付録2. 回生抵抗の動作
モータというのは、電気エネルギーを消費するだけのものではありません。
時には、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して、コントローラ側に戻してもくれます。
それだけならエネルギーの再利用ができて省エネでけっこうなのですが、戻ってくるエネルギーが大きすぎると、それはそれで問題です。
コンデンサに過剰なエネルギーが流入すると、コンデンサが破裂してしまうので大変危険です。
それをどうにかしてくれるのが回生抵抗です。
回生抵抗はFET(もしかしたら他の素子かも?)とセットで、平滑コンデンサと並列に接続されます。

コンデンサに過剰なエネルギーが流入すると電圧が大きく上昇します。
コントローラはコンデンサの電圧を常に監視し、それが閾値を超えるとFETをON(ターンON)させ、回生抵抗に余計なエネルギーを消費させます。
そうなった後は、しばらくFETはONのままです。
コンデンサ電圧が閾値(ターンON時とは別の数値)より下がるとFETをOFF(ターンOFF)させ、回生抵抗がないのと同じ状態に戻します。
こうして電気回路を保護するのが回生抵抗の役割です。
つまり、回生抵抗とは、
(過剰な)回生(電力を熱エネルギーに変換して消費することで電気回路を保護する)抵抗
というわけです。
…ちょっと省略されすぎたネーミングのようにも思えます。
前回:寄り道編(1)「基本的な4つのフィルタ」はこちら
次回:寄り道編(3)「状態方程式」はこちら
