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実際に使える制御工学:基礎編(1)「ラプラス変換。一覧表と中学数学で微分方程式を解く方法。」

<この記事で伝えたい事>

  •  ラプラス変換とは、難しい計算を簡単にしてくれる道具です
    この道具を使うと、難しい微分方程式を中学校レベルの方程式感覚で解けます。

  •  ラプラス変換を使うのに、完璧な数学理解や丸暗記をする必要はありません
    必要なとき、一覧表を見ながら使えばOKです。




1. はじめに

自己紹介はこちらです。

この記事は、主に制御系の学生や若手エンジニアに向けて書いています。 

 
制御工学とは、いろんなモノの動きを思い通りに制御するための学問です。
そして、それを応用して実際にモノを動かす方法が制御技術です。

制御技術の土台は永久不変の数学・物理学$${^※}$$なので、時代や場所によらず使える一生モノの技術です。(制御技術を身に着ければ、AIに取って代わられる心配もありません)
 

なお、この記事シリーズはだいぶ技術寄りです。
なぜなら、私は学者でなく技術者ですから。
 

おそらく、この記事を見る方は、学校での研究や会社での仕事のため、本格的に制御技術・制御工学に触れることになったのでしょう。 
そんな方に向けて、制御分野の基礎知識から順を追って紹介・説明していこうというのが、この記事シリーズの主旨になります。 


$${^※}$$一部の研究者は、数十億年単位という長いタイムスケールでは物理法則がわずかに変化する可能性があると考えているそうです。
それが正しいとしても、我々が生きているうち(せいぜい100年ちょっとの間)は不変とみなして実用上は問題ないと思います。


2. ラプラス変換のやり方 

下表のような一覧表(ラプラス変換表)を眺めながら、ニュートンの運動方程式等の中の時間$${t}$$の関数をラプラス関数に置き換えるだけでラプラス変換になります。 

詳しい使い方は、次の章で具体例を挙げて説明しましょう。 

ラプラス変換表

ラプラス関数については、さしあたり「なんだかよく分からないけど、ラプラス変数$${\bm{s}}$$というものがあって、それを使った関数なんだ」と理解してもらってOKです。

この一覧表を見て「1回微分すると$${\bm{s}}$$が1つ付くんだ」とか、逆に「1回積分すると$${\bm{1/s}}$$が付くんだ」という点に気付いた方はセンスがあるかもしれません。 

加えて「微分や積分が$${\bm{s}}$$だけで表せるなら、微分方程式を普通の方程式みたいに解けるかも...?」と思った方は、ほぼ間違いなくセンスが良いです。 


なお、ラプラス変換表に決まったフォーマットはありません。 
自分の好きなようにカスタマイズして良いのです。 
 
...とはいえ、いきなり「好きにしろ」と言われても困りますよね。 
とりあえず、あのまま使って足りないものをつぎ足していけば十分です。 

私はこの分野で25年くらいやっていますが、ラプラス変換の詳しい数式やラプラス変換表を丸暗記しているかと言われれば、そんなことはありません。 


3. ラプラス変換の具体的な使い方1(機械分野向け)

まずは機械分野の方向けに、ニュートンの運動方程式を具体例としてラプラス変換の使い方を説明します。$${^{※ 粘性摩擦はあるものとします}}$$ 

イメージする運動は、床に置いたブロックを横から一定の力$${\bm{F}}$$で押したときの運動です。
そのときのブロックの速度$${v}$$がどうなるかを、ラプラス変換を使って計算してみようと思います。 

ブロックを横から押したときの運動
ブロックを横から押したときの運動


このとき、運動方程式は下式のようになります。(速度$${v}$$を計算したいときは$${v}$$を使って運動方程式を作るのがポイントです)

$$
F_{(t)}=m\cdot\frac{dv_{(t)}}{dt}+D\cdot{v_{(t)}}
$$

$$
\begin{array}{cll}
F&:&\text{力[N]} \\\
v&:&\text{速度[m/s]} \\\
m&:&\text{ブロック質量[kg]} \\\
D&:&\text{粘性摩擦係数[N/(m/s)]} \\\
t&:&\text{時間[s]}
\end{array}
$$

この章の始めの方で力$${F}$$は一定と言ったので、$${F_{(t)}}$$は一定の$${5[N]}$$とします。 
そして、質量$${m}$$は$${1}$$[kg]、粘性摩擦係数$${D}$$は$${2}$$[N/(m/s)]にしてみましょう。 
すると、運動方程式は下式のように変わります。 

$$
5=1\cdot\frac{dv_{(t)}}{dt}+2\cdot{v_{(t)}}
$$

さて、あの表を眺めながら、ラプラス変換をしてみましょう。 
その結果は、下式になるはずです。

$$
\begin{array}{} \frac{5}{s} &=& 1\cdot s\cdot v_{(s)}+2\cdot{v_{(s)}} \\\ &=& (s+2)\cdot{v_{(s)}}\end{array}
$$

ここで、$${v_{(s)}}$$のみを左辺に持ってくるよう数式を変形します。(変形後の数式は下式です)

$$
v_{(s)}=\frac{5}{s} \cdot \frac{1}{s+2}
$$

整理した数式に中学校で教わる部分分数分解を当てはめると、次の結果が得られます。(人によっては部分分数分解を中学入試前に教わると知って驚きました)

$$
v_{(s)}=\frac{2.5}{s}-\frac{2.5}{s+2}
$$

これでひとまずの答えは得られますが、そのままだと物理的な意味が分かりにくいです。 
そこで、再びラプラス変換表を眺めてラプラス関数$${v_{(s)}}$$を時間の関数$${v_{(t)}}$$に戻します。 
これは逆ラプラス変換と呼ばれます。

部分分数分解をして得られた$${v_{(s)}}$$の逆ラプラス変換結果は下式になります。

$$
\begin{array}{} v_{(t)} &=& 2.5-2.5\cdot{e^{-2\cdot {t}}} \\\ &=& 2.5\cdot(1-e^{-2\cdot{t}})\end{array}
$$

このように、ラプラス変換表+中学校レベルの数学知識だけで、微分方程式を解いてブロックの速度$${v_{(t)}}$$を計算できます。

参考までに、先ほど得られた速度$${v_{(t)}}$$のグラフを下図に示します。 

速度計算結果
ブロックの速度

この図からは、以下の情報が読み取れます。

  • 力$${F}$$をかけ始めた瞬間($${t=0}$$[s]のとき)はブロックが止まっているので速度$${v=0}$$

  • 力$${F}$$をかけたので$${t=2\sim3}$$[s]くらいまでは、だんだん速度が上がっていく

  • 速度$${v}$$が上がると摩擦による抵抗力も上がって、$${t=3\sim4}$$[s]}くらいでブロックにかける力と摩擦抵抗力がつり合って、それ以上は速度が上がらなくなる

おそらく、これらは皆さんの中でイメージする物体の動き方と一致するはずです。 

ただ、このようなシンプルな微分方程式なら「ラプラス変換なんて使うまでもない」と思われる方もいるでしょう。
それはそのとおりです。
ラプラス変換が真価を発揮するのは、より複雑な微分方程式を解く場合です。
 
例えば、物体の剛性や制御装置の動きを考えていくと、微分方程式はどんどん複雑になります。 
そんな複雑な微分方程式をそのまま解くのはとても大変な作業です。 
それよりは、ラプラス変換を使って普通の方程式感覚で解けるようにした方がだいぶ楽です。

ラプラス変換が「実際に使える方法」なことは、なんとなく想像できるのではないでしょうか?


4. ラプラス変換の具体的な使い方2(電気分野向け)

ここでは、電気分野の方向けにRL直列回路を具体例として、ラプラス変換の使い方を説明します。

イメージするものは、RL直列回路に直流電圧$${\bm{E}}$$をかけたときの電流です。
この電流$${i}$$がどうなるかラプラス変換を使って計算してみようと思います。

RL直列回路
RL直列回路

電気回路の電圧方程式は下式になります。

$$
E_{(t)}=L\cdot\frac{di_{(t)}}{dt}+R\cdot{i_{(t)}}
$$

$$
\begin{array}{cll}
E&:&\text{電圧[V]} \\\
i&:&\text{電流[A]} \\\
L&:&\text{(コイル)インダクタンス[H]} \\\
R&:&\text{電気抵抗[Ω]} \\\
t&:&\text{時間[s]} \end{array}
$$

この章の始めの方で直流電圧$${E}$$をかけると言いました。
直流電圧というのは一定電圧を意味します。 この直流電圧を$${5}$$[V]とします。

そして、コイルのインダクタンス$${L}$$は$${1}$$[H]、電気抵抗$${R}$$は$${2}$$[Ω]にしてみましょう。(そんな大きなインダクタンスを持つコイルはそうそうないですが、あくまで例ということでそう設定します)

すると、電圧方程式は下式のように変わります。

$$
5=1\cdot\frac{di_{(t)}}{dt}+2\cdot{i_{(t)}}
$$

さて、あの表を眺めながらラプラス変換をしてみましょう。 
その結果は下式になるはずです。

$$
\begin{array}{} \frac{5}{s} &=& 1\cdot s\cdot i_{(s)}+2\cdot{i_{(s)}} \\\ &=& (s+2)\cdot{i_{(s)}}\end{array}
$$

ここで、$${i_{(s)}}$$のみを左辺に持ってくるよう数式を変形します。(変形後の数式は下式です)

$$
i_{(s)}=\frac{5}{s} \cdot \frac{1}{s+2}
$$

整理した数式に中学校で教わる部分分数分解を当てはめると、次の結果が得られます。

$$
i_{(s)}=\frac{2.5}{s}-\frac{2.5}{s+2}
$$

これでひとまずの答えは得られますが、そのままだと物理的な意味が分かりにくいです。
そこで、再びラプラス変換表を眺めてラプラス関数$${i_{(s)}}$$を時間の関数$${i_{(t)}}$$に戻します。 
これは逆ラプラス変換と呼ばれます。

部分分数分解をして得られた$${i_{(s)}}$$の逆ラプラス変換結果は下式になります。

$$
\begin{array}{} i_{(t)} &=& 2.5-2.5\cdot{e^{-2\cdot {t}}} \\\ &=& 2.5\cdot(1-e^{-2\cdot{t}})\end{array}
$$

このように、ラプラス変換表+中学校レベルの数学知識だけで、微分方程式を解いて回路に流れる電流$${i_{(t)}}$$を計算できます。

参考までに、先ほど得られた電流$${i_{(t)}}$$のグラフを下図に示します。 

RL直列回路に流れる電流
RL直列回路に流れる電流

この図からは、以下の情報が読み取れます。

  • 電圧$${E}$$をRL直列回路にかけ始めた瞬間($${t=0}$$[s]のとき)はコイルのインダクタンスによって電流が流れないので電流$${i=0}$$

  • 電圧$${E}$$をかけ続けると徐々に流れる電流が大きくなっていく($${t=2\sim3}$$[s]くらいまで)

  • 十分に時間が経つ($${t=3\sim4}$$[s]くらい)と電気の流れを阻害するのはほぼ電気抵抗だけになるので、電流$${i}$$は$${\frac{E}{R}}$$に落ち着く(ここでは$${E=5[V],R=2[\Omega]}$$なので$${i=2.5}$$[A]に落ち着く)

おそらく、これらは皆さんの中でイメージする電流の流れ方と一致するはずです。 


5. 機械と電気のアナロジー(相似性)

3章と4章を両方読んだ方は気づいたのではないでしょうか?
そう、3章での運動方程式と、4章の電圧方程式と、は速度$${\bm{v}}$$と電流$${\bm{i}}$$とが入れ替わっているだけで構造的に全く同じなのです。(3章の速度波形と4章の電流波形も完全に一致します)

下の対応関係表は機械と電気が似ているのを理解する助けになると思います。 

$$
\begin{array}{ccc} \hline
機械システム & \Longleftrightarrow & 電気システム \\ \hline \hline
質量m & \longleftrightarrow & インダクタンスL \\ \hline
粘性摩擦D & \longleftrightarrow & 電気抵抗R \\ \hline
力F & \longleftrightarrow & 電圧E \\ \hline
速度v & \longleftrightarrow & 電流i \\ \hline
\end{array}
$$

制御の視点で見ると機械と電気には共通点が多く、機械を制御する技術を電気の制御に応用したりその逆も可能です。(このように、似ている事を関連付けて理論や技術を応用する方法・考え方をアナロジーと呼ぶそうです)

制御技術は分野をまたいで様々なモノに適用できることから学ぶ価値の高い技術と言えます。(この性質から制御工学は「学際的な学問」だと学術界では言われていると聞きます)

制御が分かった上で機械・電気両方の基礎知識を身に着けることは、メカ(機械)・エレキ(電気)・ソフト(制御)を三本柱とするロボット・メカトロニクス領域において分野をまたいだ活躍をするための近道です。(2026年現在でさえ、それを実践できるエンジニアは稀少です) 
 
分野をまたいで活躍できるエンジニアは、1つの分野でしか活躍できないエンジニアに比べて幅の広い大きな仕事ができる可能性がグッと高まります。 
 
早いうちから「制御技術を軸に色々と学んでいけば、ゆくゆくは分野をまたいだ活躍ができる」ことを知っておくだけでもアドバンテージになります。 
この情報が学生・若手技術者の皆さんのモチベーション向上につながれば幸いです。 


6. おわりに 

この記事では、ラプラス変換のやり方・具体的な使い方を紹介・解説しました。 
 
分かりやすさを重視して本文中では触れませんでしたが、以下のような場合にもラプラス変換は使えます。

  • 速度や電流の初期値がゼロでないときの微積分 (「ラプラス変換」+「初期値問題」でweb検索すればヒットします)

  • 様々な三角関数(sin,cosはもちろん、わりとマイナーなsinhもラプラス変換できます)

  • 私の知らない色んな関数

 ぜひ、自分オリジナルのラプラス変換表にそれらをつぎ足してみましょう。
そうした小さな事の積み重ねが他者に差をつける力の土台になります。 


前回:基礎編ロードマップはこちら
次回:基礎編(2)「伝達関数とブロック線図」はこちら

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