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つながらない権利 法制化を検討へ-厚生労働省の審議会分科会委員が強く意見

労働基準関係法制研究会の報告書がガイドラインでと記載していたにもかかわらず、審議会分科会の議論を経て、厚生労働省が「つながらない権利(勤務時間外の連絡ルール)の法制化を検討」へと方針転換し始めたのではないかと推察することもできます。その根拠の一つは厚生労働省審議会分科会の議事録と厚生労働省が作成した準備資料の中にあります。


厚生労働省の審議会分科会で議論

労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)の分科会の一つで労働基準法や労働契約法の見直しなどを審議する「労働条件分科会」があります。

今年(2025年)1月21日に開かれた第193回労働条件分科会で「労働基準関係法制研究会報告書について(報告事項)」が議題となりました。

そして第194回(2025年2月28日)、第195回(2025年3月11日)、第196回(2025年3月27日)、第197回(2025年5月13日)、第198回(2025年5月23日)、第199回(2025年6月6日)、第200回(2025年6月16日)労働条件分科会において「労働基準関係法制について」が議題にされています。

労働政策審議会 労働条件分科会(厚生労働省サイト)

労働基準関係法制研究会の報告書

今年(2025年)1月21日に開かれた第193回「労働政策審議会 労働条件分科会」で労働基準関係法制研究会報告書について厚生労働省・労働条件確保改善対策室長が委員に説明しました。

なお労働基準関係法制研究会の報告書には、つながらない権利に関して「勤務時 間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否すること ができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ル ールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進 していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが 必要と考えられる」と記載され「つながらない権利の法制化」などとは記載されていません。

労働基準関係法制研究会 報告書(PDF)

労働側委員が「法制化も念頭に置いた検討も必要」と意見

今年(2025年)3月27日に開催されました第196回「労働政策審議会 労働条件分科会」の議事録を読みますと、情報産業労働組合連合会(情報労連)書記長の水野和人委員は、つながらない権利について「業務時間外の連絡や指示の問題というのは、自社の中だけ、あるいは上司と部下、労働者と使用者の関係だけではなくて、労基研報告でもございましたけれども、顧客とその担当者の関係も含めた複合的な要因があるということでございます」と発言しています。

また水野委員は「そうしたことも踏まえれば、社内のルールを決めるだけでは十分な環境整備は難しいと思っており、法制化も念頭に置いた検討も必要と思ってございます」とも述べています。

さらに水野委員は「事業所ごとの労使協定などの明文化も含めて、労使で職場実態に合わせたつながらない権利の確保に資するルール化を促すような取組もぜひ進めていただければと思ってございます」と意見しています。

第196回「労働政策審議会 労働条件分科会」議事録(厚生労働省サイト)

そして、この水野委員の意見を基に5月13日に開催された第197回「労働政策審議会 労働条件分科会」の資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」には、つながらない権利に関する分科会委員の意見として次のように書かれています。

・業務外の連絡や指示の問題について、労働者、使用者の関係だけではなく顧客とその担当者の関係も含めた複合的な要因があるため、社内の取組を決めるだけでは環境整備は難しく、法制化も念頭に置いた検討も必要ではないか。事業所ごとの労 使協定などの明文化も含めて、労使で職場実態に合わせた つながらない権利の確保に資するルール化を促すような取組を進めてもらいたい。

第197回「労働政策審議会 労働条件分科会」資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」

法制化に消極的な使用側委員意見に対して労働側委員が反論

6月6日に開催されました第199回「労働政策審議会労働条件分科会」の資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」には、「テレワーク時には顕著であるが、情報通信技術の発達により勤務時間外の連絡も一層容易になっており、つながらない権利の法制化に向けた検討が重要である」との委員意見が追記されていました。

・業務外の連絡や指示の問題について、労働者、使用者の関係だけではなく顧客とその担当者の関係も含めた複合的な要因があるため、 社内の取組を決めるだけでは環境整備は難しく、法制化も念頭に置いた検討も必要ではないか。事業所ごとの労使協定などの明文化 も含めて、労使で職場実態に合わせたつながらない権利の確保に資するルール化を促すような取組を進めてもらいたい。

・テレワーク時には顕著であるが、情報通信技術の発達により勤務時間外の連絡も一層容易になっており、つながらない権利の法制化に向けた検討が重要である。

第199回「労働政策審議会 労働条件分科会」資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」

第199回「労働政策審議会 労働条件分科会」では主に勤務間インターバル制度について意見がありましたが、松永恭興委員(株式会社 日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部長 兼 エンプロイーリレーション部長)、水野和人委員(情報労連書記長)は「つながらない権利」について意見を述べています。

議事録によると、まず厚生労働省・労働条件政策課長が、資料にある「つながらない権利」に関する労働基準関係法制研究会報告書の抜粋を示しながら「欧州諸国等の状況を御紹介した上で、勤務時間外にどのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、総合的な社内ルールを労使で検討していくことが必要となる。このような話合いを促進していくための積極的な方策を検討することが必要と考えられるという御提言をいただいております」と説明しています。

すると松永委員が「つながらない権利について一言コメントさせていただきたいと思っています」と言ってから「連続勤務とも同じだと思うのですけれども、やはり終業時ですとか休日に自分の職場、上司とか顧客からメールや電話があるというのは、労働者にとってみればなかなかストレスのある話だと思っていますので、これを何とかするというのは一つ課題としてはあるのかなと思っています」と発言しています。

また松永委員は「ただ、これもいろいろなところで指摘がありますけれども、天災事変とかシステムダウンとか、昨今のサイバー攻撃みたいな突発事象というのも想定されますので、勤務時間以外でも緊急の連絡が取れる体制というのは各社さんそれぞれあるのだろうなと思っていますし、場合によっては休日ですとか終業後にも対応が必要だというケースもあるということだと思うのです」と述べています。

さらに松永委員は「連絡を取り合うということが社内でとか、あと、お客さんを含めて社外とか、いろいろなケースがあると思っています。その中で対応の必要性の有無ですとか、連絡をするほう、受けるほうの対応方法も様々あるのかなと思っています。これはなかなか難しい面があると思うのですけれども、特に社内の連絡ということで言うと、それぞれ仕事のスタイルですとか個人ごとのお考えというのもいろいろあって、この問題というのは労働条件というよりも働き方そのものというような感じがするのです」と続けています。

そして松永委員は「ですので、まずはメールの送付の抑制ですとかシステムへのアクセス制限等、先ほども澁谷課長からありましたテレワークガイドラインの周知というのをまずは行っていきながら、勤務時間外での連絡を抑制するような社会全体での意識改革をやっていくというのが重要なのかなと感じております」と意見しています。

この松永委員の意見に対して水野委員は「つながらない権利につきまして、以前の分科会でも発言させていただきましたけれども、改めて勤務時間外の連絡についてのルールを法定化することを検討する必要があるということで申し上げたいと思っています」と述べ、次のように続けています。

水野委員は「労基研(労働基準関係法制研究会)での御議論の過程では、労働契約法や労働時間等設定改善法も挙げられてございましたし、フランスを参考に労使の協議義務を課す方法についても言及があったということで認識しています」「この点は、その結果として、労基研の報告書、資料№2の13ページになりますが、労使の話合いを促進するためのガイドラインの策定ということにとどまっています」「当面の対応として、ガイドラインによって職場実態に合わせて つながらない権利についての労使でのルール化を図る取組を促進するということも考えられるかもしれません。しかしながら、今ほども社内外での対応があるということでございましたし、企業内だけではなくて顧客や取引先との関係性を含めて考えれば、つながらない権利の実現には企業労使の垣根を越えた相互理解の下に取組を進めなければ実効が上がらないのではないかと考えてございますので、全体的な法制化により労使のルール化の営み促進を進めていくと同時に、様々な商慣行の是正であったり、お互いの働き方を認め合うことにつなげていく必要があるのではないかと思ってございます」と述べています。
 
そして水野委員は「今ほど、それぞれ働き方の考え方も違うというようなこともございましたし、様々な天災やシステム障害などがある中で、連絡体制が必要というような御発言もございました。つながらない権利という言葉だけを聞いてしまうと、どうしても全く労働から遮断する印象になるかもしれませんけれども、これは勤務時間外の連絡手段をどうするかということを労使で決め合うことだと思ってございます」とは発言しています。

さらに水野委員は「つながらない権利もまさに労基研(労働基準関係法制研究会)報告のカテゴリーでは労働からの解放という分野だと思っていますので、連絡手段が高度化・多様化する中で、いつ何どき連絡あるか分からない状態では労働者は本当に安心して労働からの解放されたということになりませんから、そういった中で恣意的な運用にならないような労使での論議が一定必要ではないかと思ってございます」と意見しています。

第199回「労働政策審議会 労働条件分科会」議事録(厚生労働省サイト)

法制化に消極的な意見が資料「これまでの意見」に見当たらない

6月16日に開催されました第200回「労働政策審議会 労働条件分科会」の資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」には、前回(第199回「労働政策審議会 労働条件分科会」の資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」の記載と同じ内容でした。

つまり、前回(第199回)「労働政策審議会 労働条件分科会」での松永委員の「つながらない権利」法制化に消極的な発言が記載されていません。このことは重要な意味があります。

・業務外の連絡や指示の問題について、労働者、使用者の関係だけではなく顧客とその担当者の関係も含めた複合的な要因があるため、 社内の取組を決めるだけでは環境整備は難しく、法制化も念頭に置いた検討も必要ではないか。事業所ごとの労使協定などの明文化 も含めて、労使で職場実態に合わせたつながらない権利の確保に資するルール化を促すような取組を進めてもらいたい。

・テレワーク時には顕著であるが、情報通信技術の発達により勤務時間外の連絡も一層容易になっており、つながらない権利の法制化に 向けた検討が重要である。

第200回「労働政策審議会 労働条件分科会」資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」

つながらない権利の法制化を検討

つながらない権利 法制化の検討へ

労働基準法制研究会報告書にある「つながらない権利」法制化に消極的な記載にもかかわらず、厚生労働省は労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)労働条件分科会での議論を経て「つながらない権利 法制化の検討へ」と動くのではないかと思います。

つながらない権利(勤務時間外の連絡ルール)

なお、情報労連の水野委員は「つながらない権利という言葉だけを聞いてしまうと、どうしても全く労働から遮断する印象になるかもしれませんけれども、これは勤務時間外の連絡手段をどうするかということを労使で決め合うこと」と労働条件分科会で発言しています。

また、情報労連は今年の春闘事前説明会においても「つながらない権利」を「つながらない権利(勤務時間外の連絡ルール)」と表記しています。今後は情報労連にならって「つながらない権利(勤務時間外の連絡ルール)」と呼ぶようにしたいと思います。

第200回「労働政策審議会 労働条件分科会」(アドバンスニュースより)

追記:法制化の検討に消極的意見も資料に記載

資料「各側委員からの主な意見の整理(案)」

2025年8月19日に開催されました第201回「労働政策審議会(労政審)労働条件分科会」の資料「各側委員からの主な意見の整理(案)」には、労働法制に関する論点別に労働者側委員、使用者側委員、公益(有識者)委員の意見をまとめた資料となっています。

この資料「各側委員からの主な意見の整理(案)」には前回(第200回)資料「労働条件分科会におけるこれまでの意見」には記載されていなかった前々回(第199回)議事録に書かれていました使用者側・松永委員の「つながらない権利」法制化に消極的な発言なども記載されています。

(労働者側)
・業務時間外の連絡や指示は、労働者と使用者の関係だけではなく顧客とその担当者の関係も含めた複合的な要因により生じるものであり、社内の取組を決めるだけでなく、企業労使の垣根を越えた相互理解の下に取組を進めなければ実効が上がらないため、法制化も念頭に置いた検討も必要。

・情報通信技術の発達により勤務時間外の連絡も一層容易になっており、いつ連絡があるか分からない状態では、労働者は本当に安心して労働から解放されることにならないため、恣意的な運用にならないよう労使での論議が必要。

(使用者側)
・所定時間外の連絡をどうするかは、労働条件というよりは働き方、仕事の進め方、指揮命令の権限にも関わることであり、会社としてルー ルを定めるということはあっても、労使の話合いを前提として社内ルールを定めることには直結しないのではないか。

・メール送付の抑制やシステムへのアクセス制限等、テレワークガイドラインに長時間労働対策として盛り込まれた内容の周知をまずは行い、勤務時間外での連絡を抑制するような社会全体での意識改革を進めることが重要。

(公益)
・一企業の取組で完結する問題ではなく、休日や時間外の他社からの連絡があまりに過度になる場合はカスハラ(カスタマーハラスメント)につながるおそれもあることから、つながらない権利が労働者のワーク・ライフ・バランスの実現など様々な面でプラスになることを広く社会に周知することが望ましい。

第201回「労働政策審議会 労働条件分科会」資料「各側委員からの主な意見の整理(案)」

つながらない権利の法制化「もちろんなく」原昌登発言

なお、資料「各側委員からの主な意見の整理(案)」に記載された公益委員意見は、6月6日に開催されました第199回「労働政策審議会労働条件分科会」議事録を確認しましたが、原昌登・成蹊大学法学部教授の発言になります。

〇原(昌登)委員(オンライン参加)
私自身はつながらない権利については、これが重要な論点、テーマであるということを広く社会に周知啓発していく必要があると考えております。理由は2点ありまして、1点目は今の御発言にも関わりますけれども、ある会社でつながらない権利を大事にしたいと思っても、これは企業内部のことであればルール化などができるかもしれませんが、社外からの連絡がたくさん来るとなかなかそれは実現できませんので、一企業でどうこうできる問題ではない部分があります。そこで、社会全体で つながらない権利は大事だよねといったことを広めていく必要があるというのが1点。

もう1点は、ちょうど一昨日法制化されましたが、カスタマーハラスメントとの関係です。休日や時間外の他社からの連絡があまり過度になるようであれば、それはいわゆるBtoBカスハラにつながるおそれもあるわけです。そういったカスタマーハラスメントにつながり得るような時間外、深夜、休日等の連絡を減らしていくという観点からも、つながらない権利に関心を持つことは十分な意味があると思われます。

ただ、いきなり法制化ですとか強制的にということではもちろんなくて、こういったつながらない権利というものが労働者のワーク・ライフ・バランスの実現等、様々な面でプラスになるということを広く公的な形で周知啓発していくために、例えばガイドラインですとか様々な工夫をしながら、積極的に周知をしていくということが望ましいと考えております。

第199回「労働政策審議会 労働条件分科会」議事録

原委員の「法制化ですとか強制的にということではもちろんなく」と発言していますが、もちろん法制化はないというのは公益委員としては「配慮にかけていないだろうか」とも思いますが、結局、つながらない権利の法制化には反対するという意見だということです。

今までの資料は「つながらない権利」法制化の検討を労働条件分科会委員から強く求められている印象でしたが、今回の資料「各側委員からの主な意見の整理(案)」によって法制化だけではない意見も労働条件分科会で発言されていることを記載して今後の議論の基にしようとしています。

つまり「つながらない権利」(業務時間外の連絡ルール)法制化に消極的な意見も厚生労働省が準備する資料において復活したことになります。
 
8月19日に配信されたアドバンスニュース(「労働時間法制の具体的課題」をテーマに議論続行、労政審労働条件分科会 これまでの労使見解を整理し後半戦へ)には今回の労働条件分科会では前回に引き続き「労働時間法制の具体的課題」について掘り下げ、また、事務局の厚生労働省がこれまでの論点に対する労使の意見を一覧にして整理し、「これを基に、労使が意見の補強や論点の追加要望などを行った」と報じています。

またアドバンスニュースの記事には「今回の論点整理を踏まえ、年内の報告書取りまとめを念頭に議論は佳境に入る」と書かれています。

追記:国立国会図書館 調査及び立法考査局

「法律」は国立国会図書館 調査及び立法考査局の加筆

2025年8月に公表された国立国会図書館 調査及び立法考査局レファレンスのレポートには「つながらない権利は、法律でルールを定め規制すれば実現されるものではない企業・個人 の特性やニーズを踏まえた労使自身による取組とそれを後押しする政策が重要」と書かれており、つながらない権利の法制化に否定的な(または消極的な)意見を記載しています。

三村佳緒「労働からの解放に関する労働時間法制―休日、年次有給休暇、勤務間インターバル制度、つながらない権利ー」『国立国会図書館 調査及び立法考査局レファレンス』896号(2025年8月)

つながらない権利の法制化の検討に否定的な(または消極的な)国立国会図書館 調査及び立法考査局レポートの根拠は、青山学院大学法学部の細川良教授が2019年に書いた日本労働研究雑誌の論文と註にあります。

しかし、細川教授はフランスを例にして「単に形式的に『つながらない』ことをルール化すればそれで実現できるというものではない」と述べています。

つまり、国立国会図書館 調査及び立法考査局がレポートにおいて「法律でルールを定め規制すれば実現されるものではない」と「つながらない権利」法制化を否定していますが、「法律」は国立国会図書館 調査及び立法考査局の加筆になります。

なお、国会図書館 調査及び立法考査局は「当面の国政課題や審議中の議案・案件」「中長期的な国政課題」「制度・政策の歴史的な経緯」等の調査を行っています。

「ICT が『労働時間』に突き付ける課題―『つながらない権利』は解決の処方箋となるか?ー」

細川良教授は論文の中で「ICTの発展は、『労働時間』と『私的な時間」との境界をあいまいにするとともに、『労働時間』外においても労働者の肉体的・精神的健康に対して負荷をもたらす恐れがある」と指摘されています。

そして細川教授は、つながらない権利は「フランスにおける立法および企業の取り組みを見る限り、以上のような状況を解決するための1つの糸口を示すもの」と述べています。

また細川教授は「『つながらない権利』を実質化するための労使による取り組み、およびそれを後押しするための政策が重要」と意見されています。

ICTの発展は,モバイルワーク,サテライト ワークを含む,テレワークのような柔軟な働き方を容易にするものであることは疑いなく,またそれに伴って,テレワークだけでなく通常の働き方においても,大なり小なり「自律的」な働き方が拡大していることも疑いがない。しかし,こうした働き方の導入が当然に労働者にとっての柔軟性や自律性を保障するものではなく,かえってICT が労働者から柔軟性や自律性を奪うことも起こりうる)。また,労働時間の管理という側面からみれば,ICTの発展は,「労働時間」と「私的な時間」との境界をあいまいにするとともに,「労働時間」外においても労働者の肉体的・精神的健康に対して負荷をもたらす恐れがあるといえる。

「つながらない権利」は,フランスにおける立法および企業の取り組みを見る限り,以上のような状況を解決するための1つの糸口を示すものとはいえそうである。もっとも,それは単に形式的 に「つながらない」ことをルール化すればそれで実現できるというものではないことも明らかとなった。「つながらない権利」を実質化するための労使による取り組み,およびそれを後押しするための政策が重要ということになる。今後のフラ ンスおよび日本における取組の進展に期待したい。

細川良「ICT が『労働時間』に突き付ける課題―
『つながらない権利』は解決の処方箋となるか?ー」
『日本労働研究雑誌』709号(2019年8月)

細川良「ICT が『労働時間』に突き付ける課題―『つながらない権利』は解決の処方箋となるか?ー」『日本労働研究雑誌』709号(2019年8月)

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