代理店は教えてくれない? マンション保険を「使い倒す組合」と「払い損の組合」
「今年は台風も来なかったし、火事も起きなかった。保険を使わなくてよかったね」
総会の時期、決算報告を見ながらこんな会話をしていませんか? 平穏無事であることは素晴らしいことです。しかし、マンション管理のプロとして、少し意地悪な質問をさせてください。
「本当に、保険を使うような事故は『何も』起きませんでしたか?」
実は、多くの管理組合が、本来なら保険金を受け取れるはずの事故を見逃し、年間数万〜数十万円単位の「払い損」をしています。 一方で、私が担当する「賢い理事会」は、火事も台風も起きていないのに、しっかりと保険金を請求し、修繕費の持ち出しを最小限に抑えています。
両者の違いはどこにあるのでしょうか。それは、マンション保険(共用部分の火災保険)に付帯されている【ある特約】の使いこなし方にあります。
今回は、代理店や管理会社があまり積極的には教えてくれない、マンション保険の「裏メニュー」的な活用法について解説します。
◇
1. 「火事」以外でも保険は下りる
マンション保険において、最も見落とされがちで、かつ最も使い勝手が良いのが『破損・汚損』(不測かつ突発的な事故)という補償です。
これは、簡単に言えば「うっかり壊してしまった」「誰かに壊されたが、犯人がわからない」というケースをカバーするものです。 例えば、あなたのマンションでこんなことは起きていないでしょうか?
・引越し業者のトラックが、敷地内のフェンスに接触して曲がった(業者は特定できず)。
・エントランスの自動ドアに子供が激突してガラスにヒビが入った。
・駐輪場で自転車がドミノ倒しになり、照明器具が破損した。
・共用廊下の壁に、台車をぶつけたような穴が開いている。
これらは全て、「火災」でも「自然災害」でもありませんが、多くの契約において【保険金の支払い対象】になります。 「払い損の組合」は、これを「小さな修繕だから」と管理費(小修繕費)から支出してしまいます。しかし、「使い倒す組合」は、すかさず保険申請を行い、免責金額(自己負担額)を除いた修理費を保険金でカバーするのです。
2. なぜ管理会社は教えてくれないのか?
「そんな便利なものなら、管理会社が提案してくれるはずだ」と思われたかもしれません。 しかし、残念ながら現実はそう甘くありません。これには、管理会社のフロント担当者が抱える「構造的な事情」が関係しています。
理由①:業務量が激増するから
保険申請には、事故状況報告書、写真の整理、見積もりの手配、保険会社との折衝など、膨大な事務作業が発生します。多忙な担当者にとって、数万円の修理のためにこれだけの時間を割くのは、正直なところ「割に合わない」と感じてしまうのが本音です。
理由②:現場の「傷」に気づいていないから
月に1〜2回の巡回では、敷地内の細かいフェンスの歪みや、目立たない壁の凹みまでは把握しきれません。管理員さんが日報に書いていても、それを「保険事故」として認識できる担当者は意外と少ないのです。
つまり、理事会側から「これ、保険で直せませんか?」と水を向けない限り、スルーされてしまう可能性が高いのです。
3. 「時効」は3年。今からでも間に合う「宝探し」
ここで朗報があります。保険法の規定により、保険金請求の時効は【3年】とされています。 つまり、先月起きた事故だけでなく、1年前、2年前に起きた破損事故であっても、原因と日時がある程度特定できれば、今からでも請求できる可能性があるのです。
「使い倒す組合」の理事会は、定期的に「施設点検」を行います。 理事全員でマンションを一周し、「あ、ここ凹んでる」「フェンスが曲がってる」という箇所をスマホで撮影していくのです。 そして、管理員さんの過去の日報(管理日誌)を遡り、「〇年〇月〇日、引越し作業あり」といった記述と突き合わせることで、事故の状況証拠を固めていきます。
これはまさに、埋もれていた埋蔵金(保険金)を掘り起こす作業です。過去には、この見直しだけで100万円近い保険金が下り、修繕積立金の足しにした事例もあります。
◇
結論:保険は「お守り」ではなく「権利」
もちろん、虚偽の報告や、経年劣化(ただの老朽化)を事故と偽って申請することは詐欺にあたります。絶対にやってはいけません。 しかし、正当な理由がある事故に対して、正当に保険金を請求することは、管理組合の資産を守るための重要な権利行使です。
「保険料が値上がりするんじゃないの?」と心配される方もいますが、自動車保険と違い、マンション保険は「1回使ったら翌年から等級ダウン」という単純な仕組みではありません(※契約形態によりますが、少額の事故件数が影響しにくいプランもあります)。まずは代理店に確認してみる価値は十分にあります。
次回の理事会では、ぜひ「過去の修繕履歴」と「管理日誌」を引っ張り出してみてください。 そこには、申請し忘れている「数万円」が眠っているかもしれません。
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